深淵シリーズ短編集

□深淵に咲く幻の花
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 その夜は珍しく刹華と守焉、二人での任務だった。
暗部総隊長と解部総轄長が一緒に任務に赴くなど、滅多にないこと。
どのような難しい任務かと三代目に呼び出された時は思っていたが、そう大したものではなかった。
 とは言え、任務内容は殲滅任務で、一人一人の実力はともかく数が多い。
普通の暗部ならば、一人どころか二人でも生きて帰れないレベルのものだ。
大したものではないと言い切れるのは、やはり火影をも超える実力を持つと言われる二人だからこそである。
「すみませんでした、このような任務に呼び出してしまって」
 任務の帰り、申し訳なさそうに謝罪する刹華に守焉は眉を顰めた。
「何故お前が謝る必要がある? これは火影様から依頼された任務だ、気にすることはない。それに最近、解部に篭りきりでそろそろ体を動かしたかったからな、いい運動になった」
 こともなげに答える守焉に刹華はふんわりと笑う。
それは暗部面を被っていても気配で伝わってきて、守焉は表情を和らげた。
「守焉、ありがとうございます。貴方はいつも優しい」
「いや、好きでやっていることだ。それに、俺が優しいのはお前限定だと知っているだろう?」
「守焉……」
 甘やかな言葉に思わず立ち止まり動揺する刹華に、守焉も立ち止まって歩み寄り、背に流れる漆黒の髪を一房すくい愛おしげに口付けた。
「あ……」
 とたん、刹華から小さな声が上がり、守焉は優しい笑みを浮かべる。
誰もが見惚れるだろう魅力的な笑みに刹華はますます動けなくなった。
暗部面を取ればきっとその顔が真っ赤に染まっていることに気付かれるだろう。
 感情を失った刹華に唯一感情を取り戻させる相手。
彼の傍にいることが刹華にどれだけの幸福を与えているのか本人は気付いているのだろうか。
「刹華、いや、ナル。面を取っていいか?」
「シカ……」
 急に真名を呼ばれて驚くより先に相手の真名を呼んでしまった刹華だったが、いつの間にか自分達の周りに姿と声を遮断する結界がはられている事に気付き、すぐにこくりと頷いた。
 刹華の暗部面を守焉が取るのと同時にお互いの変化の術を解き本来の姿に戻る。
 刹華はナルトに。
 守焉はシカマルに。
 姿が戻った二人は、自然に抱き締めあって寄り添った。
「ナル、少し寄り道をしないか」
 シカマルのぬくもりを感じ、落ち着いたナルトに唐突な提案を持ちかける。
ナルトは不思議そうに見上げながらも素直に頷いていた。
「いいけど、珍しいね、任務の帰りに寄り道だなんて」
 基本、シカマルもナルトも任務に私情を持ち込まない。
お互いが寄り添うのは任務が片付いて報告まで済ませてから、と二人の間で暗黙の了解が出来ている。
それを破ってまでの提案なのだからナルトに不思議がられるのも無理はない。
「ああ、どうしても、今一緒に見たいものがあるんだ」
「見たいもの?」
 見当もつかず首を傾げるナルトにシカマルは微笑みかけると、彼オリジナルの空間移動術を片手印で発動させ、一瞬にして結界を維持したまま目的地に移動した。

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