同い年の親子シリーズ
□母上と日記
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シカマルとナルト、二人と一緒に本邸に住むようになって一週間。
二人との生活にも慣れてきたサイは、ここ数日本邸の探検をして過ごしていた。
外に出ず、部屋に引き篭もってばかりいたサイを心配した二人が、何度か外へ遊びに行けと声をかけたが、サイはそれを嫌がり、首を振る。
サイとて、二人が心配して言ってくれているのがわかっていたが、気持ちが追いついていなかった。
ここは居心地がよくて、安心できる場所。
甘えても怒られない唯一の場所だ。
だから、ここにいれば大丈夫、引き離されることはないと無意識に思ってしまっているのかもしれない。
でも、二人の気持ちもわかるので、自分に理由を付けた。
それが、部屋の探索。
ぜんぶ部屋の探索が終わったら、外の探索に行く。
そう自分に言い聞かせて自分の心の中で準備をしながら部屋の探索に勤しんでいたのだ。
さすがにシカマルとナルトが居心地のよいように整理された家だけあって、サイにも興味深い部屋がたくさんあった。
例えば、地下には膨大な書籍が置いてある書庫があったり、シカマルとナルトがそれぞれ実験室を持っていたり。
武器庫や、食料庫もあれば、室内修行場まである。
目を輝かせて一つ一つ回ってきたサイだったが、たくさんあった部屋も、あと二部屋。
シカマルの部屋とナルトの部屋のみとなっていた。
先にシカマルの部屋に入ったサイは、くるりと見渡してすぐに退散した。
いくら許されているからと言っても、人のプライベートルームを勝手にじろじろと見るのはいけないことだと考えたからだ。
それでも興味に引かれて見回したその部屋はとてもシンプルで、ところどころナルトとの写真やプレゼントに貰ったと思われるもの、あと調べものの途中なのか数十冊の書籍が机に置かれていた。
次にナルトの部屋。
シカマルの部屋と同じように一目見渡してから出ようと思い戸を開けた。
ナルトの部屋もシカマルと似たような感じで、ほとんど物がない。
その中で机の上にあった少し豪華な分厚い本が目に入り、ついつい吸い寄せられて手に取った。
開いて見たサイは、これが本ではなくノートであることに気付き、ページをめくる。
そして入ってきた綺麗な筆跡を目で追って、あ、と慌ててノートを閉じた。
「これ…日記帳だ」
サイが手に取ったのはナルトの日記帳だった。
毎日丁寧に綴られているらしく、見た限りでは日付が飛んでいなかった。
「母上…こんなの書いてたんだ」
サイは思わず感心してしまった。
一週間過ごしただけでも、ナルトとシカマルの忙しさはよくわかった。
そんな忙しさの中、毎日丁寧に付けられているのだから何処にそんな時間があるのだろうと思わずにはいられない。
そんなことをつらつらと思っていたサイは、背後からやってくる気配に全く気付かなかった。
「こーら、サイ。なにやってるんだ」
突然の背後からの声にビクリとしたサイは、思わず日記帳を落としてしまう。
それを拾ったのはこの部屋の主であるナルトで。
「…は、母上……」
なんだかいけないことをした気がして、サイの声のトーンが少し落ちた。
それに気付いたナルトは手に取った自分の日記帳を机に戻し、苦笑しながらサイの頭を撫でてやる。
その優しい手つきに安心したサイは、僅かに表情を緩ませた。
「ごめんなさい、母上…お部屋の探検をしていたんです」
正直に告げて謝ったサイにナルトは優しく笑い、そうか、と頷く。
「俺の日記帳が気になった?」
「…はい。最初は綺麗な本だと思って手に取ったんです。そしたら、本じゃなくて日記帳で。あ、中身はほとんど見てないです。すぐに閉じました」
「ああ、大丈夫。気にしなくていいよ」
焦って弁明するサイに、怒ることなく告げたナルトは、そのまま机の引き出しを開け、先程の日記帳と色違いのものを取り出すと、サイにはい、と手渡した。
「…母上?」
サイは受け取ったものの、意味が全くわからなくて首を傾げる。
そんなサイにナルトは笑って答えた。
「これはお前のだよ」
「僕の?」
「そう。俺が日記を書き始めたのは、シカに勧められたのがきっかけだった。いろいろと溜め込んで誰にも話せない性格をしている俺にな、シカが日記帳を手渡して、『俺がいてやれなくていろいろ溜め込んだ時はこの日記帳に吐き出しちまえ、少しは楽になるから』って。そうして思ったこと、感じたこと、日々のこといろいろ書くようになった。そしたらね、不思議なことに気持ちがすごく楽になったし、落ち着いてきて、薄かった感情もはっきりと出るようになったんだ。だからお前も、やってみたらいい」
ナルトの言葉にサイは日記帳をじっと見つめた。
緑の色彩で統一されたチェック柄の綺麗な表紙。
ナルトが感情を忘れた自分のことを思って勧めてくれた日記。
なんだかじわりと温かくなって、口元が緩んでいくのと感じる。
それが笑っているのだと自身で気付いて、なんだか嬉しい気持ちになる。
「母上…ありがとうございます」
笑みを浮かべたままお礼を言うサイに、ナルトは嬉しそうに微笑んで。
ナルトから微笑を返されたサイは、もらった日記帳をぎゅっと大事そうに抱き締めた。
数時間後、帰って来たシカマルにナルトから日記帳をもらったことを告げると、シカマルも、あーそうか、と微笑みながら頭を撫でてくれた。
「実は、俺も持ってんだよ。おそろいの日記帳。俺の場合は嫌でも頭に入ってくる情報を少しでも整理しようと考えて半分鬱憤晴らしに書いてるんだけどな」
そう言って見せてくれたのは同じ柄の色違いの日記帳。
おそろいなのがなんだか嬉しくて、サイはその日笑みが止まらなかった。