本編1

□双対の戦神
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暗殺戦術特殊部隊―――通称・暗部。
 火影直属の部隊として知られているそれは、すべてが謎に包まれている。
わかっている事といえば、任務の中でもAやSといった上忍でも生きて帰れるか分からない難しいものや、暗殺の類を請け負っている事と、アカデミー生・下忍・中忍・特別上忍・上忍問わず、忍として優秀と思われる者が選ばれ入隊するという事。
 更に言えば上忍ですら噂程度にしか聞いたことはないが、任務にはSクラスの上にSS(ダブルエス)・SSS(トリプルエス)クラスというものがあり、それを遂行しているとも言われている超エリート部隊である。
 だが、謎に包まれている暗部にも例外というものはある。
強さゆえに里内外で名を知られている者、名家・旧家や血継限界を持つ生まれで、姿を偽っても家名がばれてしまう者。そういった者達は暗部内に留まらず、ある程度高ランクの任務を務める中忍以上の忍達に広く知れ渡る。
 例としてあげると、最も知られているのは、はたけカカシ。
ビンゴブックにも載っている彼は独特な必殺技と片目に写輪眼を持つことで有名だ。
 そんな中、ここ最近になって、木の葉の暗部で名が知れ渡るようになった者が二名いた。
その者は常に単独もしくは二人で行動し、滅多に他の者と組むことがない。
にもかかわらず、どのような不利な任務であろうと成功率・生存率はほぼ百パーセント。
彼らに牙を向けて生きて帰った者はなく冷静にして冷酷、戦う姿は見惚れてしまうほど優雅だという。
 姿を見た者の話では、一人は深い緑の瞳に青銀色の腰まで伸ばした髪を一つに緩く縛った青年で、暗部名を蒼光。
もう一人は深い青の瞳に漆黒の腰まで伸ばした髪を一つに緩く縛った青年で暗部名を蒼闇。
里にとって禁忌に値する狐を模した白と黒の暗部面を被っているので顔までは分からないものの、その姿だけでも美貌が窺えるような青年だという。
 その美貌と圧倒的な力、優雅な戦い方から付いた二つ名は、青銀の戦神・蒼光と漆黒の戦神・蒼闇。
総して双対の戦神と呼ばれ、生きた伝説と化しつつあった。
 木の葉の暗部達の中には、初めこそ、ぽっと出の新人が有名になったことに対して不満や嫉妬をする者もいないことはなかったが、そういった者に限って、たまたま任務が蒼光達と一緒になり、その実力や人柄を見せ付けられ、今や二人に対し、敬いこそすれ反発する者は殆どいなかった。
 実は、下らないことに拘る輩に対し、腹に据えかねた蒼闇がひそかに仕組んでいた事なのだが、それを知る者は蒼光と三代目のみ。
『実力の差を見せつけられても身の程を知らない者など暗部に必要ありませんよ』と蒼闇は二人に話していたが、圧倒的な強さを目の当たりにして反発するような愚か者は、幸いにも暗部の中には居らず、三代目は内心ホッとしていた。
「そろそろ帰ってくる頃かのう…」
 三代目は執務の手を休め窓の外に眼を向ける。
時刻は深夜。数刻もすれば明け方になる時間だ。
 今日の暗部に対する任務は数も少なく、難易度も高くないものばかり。
任務を終えた者達が報告に来る頃だろうと思っていると、僅かな気配と共に数人の暗部が三代目の前に現れ、跪いた。
「火影様、任務完了いたしました」
「うむ、ご苦労であった」
 任務完了の報告を述べたのは先頭にいた暗部。
名を氷月。自他共に認める実力第三位の暗部だ。
 数年前までは氷月こそが実力一位だと言われていたが、蒼光・蒼闇が現れてからは実力の差を見せ付けられ、一位蒼光、二位蒼闇についで三位に下がることとなった。
しかし、氷月は彼らを尊敬し、三位にいる事に不服はないらしく、常々蒼光達を快く思わない者に彼らへの想いを包み隠さず話していた。
「これが報告書になります」
 氷月から差し出された報告書を受け取りざっと眼を通した三代目は、一つ頷き机の上に置く。
「今日の任務はこれまでじゃ。体を休め、次に備えるようにな」
「御意」
 三代目の言葉に素直に一礼した氷月は、それにしても、と言葉を続ける。
「最近、任務数が落ち着いてきましたね。ようやく日常が戻って来たということでしょうか?」
「そうじゃな。九尾事件より五年。里に以前の活気が戻り、人々の笑顔が見られるようになった。忍の数は
相変わらず十分とは言えぬが、それでも直後よりも遥かに落ち着いてきておる。皆の努力のお陰じゃ。特におぬしら暗部にはいつも厳しい任務をこなして貰い、すまぬの」
 三代目の謝罪と温かい言葉、その場にいた暗部達は胸が熱くなるのを感じながら深く頭を下げる。
「もったいないお言葉ありがとうございます。これが我ら暗部の使命。木の葉の為、火影様の為に命を賭して働けること、誇りに思っております」
「私もです」
「私も同意です」
 氷月の言葉に次々と同意する暗部達に三代目も、嬉しそうに微笑む。
木の葉の里の火の意思は未だ絶えることなく息づいているのだと感じ、改めて里の全てを愛おしく思った。
「時に三代目、つかぬ事をお伺いしますが…」
「何じゃ、言うてみよ」
「は、あの事件以来、空位になっている暗部総隊長・総副隊長の座、いつ後継をお決めになるのですか?」
 思いもよらなかった質問に三代目は一瞬黙り込み、氷月を見つめる。
「……なんじゃ、藪から棒に」
「今までは里の復興重視の為、選定する間がないと三代目はおっしゃっていましたし、我ら暗部の中に総隊長・総副隊長の任に耐えうる逸材が存在しなかったのも事実でしたので空位のままとなっておりましたが、里も落ち着いた今、里外に示す為にも我らのトップが必要ではないか、と思いまして。それに、何より相応しい方が現れた」
「そうです! 我ら暗部内でも伝説と化しているあの方々であれば総隊長・総副隊長に立たれてなんら不足はありません!」
「うむ……」
 氷月達の進言に三代目は暫し考え込む。
彼らが指している人物が誰なのかなど聞かずともわかる。
彼らに暗部のトップに立つだけの力と資格がある事も。
 三代目自身、氷月達同様、トップは彼らに、と考えないわけではなかったが、果たして当の本人達はどう思うだろうか。
「わしもそのことについては考えんでもなかった。おぬしらが言う相応しい方々とは蒼光、蒼闇のことであろう」
「はい、火影様はどう思われますか?」
「わしは異論はない。そろそろ決めねばならんと思っておったし、任命するのであればあやつらが良かろうと思っておった。ただ、当の本人達がどう考えるか、じゃな」
 三代目のはっきりしない言い方に氷月達は首を傾げる。
「受けていただけない可能性があるということでしょうか。何か問題でも?」
 暗部のトップに立てるなど、そうそうないこと。責任は重いがやりがいはある。
普通実力が伴っているのであれば、喜んで引き受けるだろうと思われるのだが…
「うむ……いや、これは本人に聞いてみるべきじゃろうな。全てはそれからじゃ」
 一人頷きながら呟く三代目に、氷月達はますますわからず顔を見合わせた。
「私達がどうかしましたか?」
「人の居ない所で話をしないで欲しいな」
 突然どこからともなく声が掛かる。
はっと部屋を見回すと窓側に気配もなく人が現れる。
それは正に噂の人物、蒼光と蒼闇だった。
「蒼光さん、蒼闇さん!」
 目の前に姿を現すまで気配に気付くことができなかったことに衝撃と感嘆の思いが湧き上がる。
三代目も二人の気配に気付かなかったのか軽く目を見張った。
「おぬしら、もう任務を終えたのか?」
 三代目の問い掛けに二人は跪き、礼をとることで了承の意を示す。
「任務全て完了いたしました。報告書はこれに」
「うむ、ごくろうだった」
 先程と同様、手渡された書を確認し、机の上に置く。
一連の流れを確認した二人はすっと立ち上がり、後ろに控えていた氷月達へと振り向いた。
「で、何のお話でしょうか? 私や蒼光の名が出ていたようですが」
 蒼闇が問うと、口篭った暗部達の中で氷月が口を開いた。
「暗部総隊長、総副隊長について話していたんですよ。現在空位ですがそろそろいいのではないかと」
「ああ、確かに里外への示しの為にというのであれば必要でしょうね」
「で、それを俺達にやれ、ということか?」
 蒼闇が氷月の言葉に納得する傍ら、蒼光が話の流れを読み取り、確認する。
「そうじゃ。おぬしらは目下暗部の中で一、二位の実力者じゃ。それは同時に木の葉の里の一、二位と言って間違いないじゃろう。恐らくわしでさえ敵わぬじゃろうからの。そんなおぬしらに総隊長、総副隊長を勤めて欲しいと思うのは当たり前じゃろ?」
「…まあ、否定はしませんが……」
「そうだな」
 三代目の言い分は至極最もで、蒼闇も蒼光も肯定する。
それに勢いづいて氷月達も畳み掛けるように訴えた。
「三代目だけでなく、我々暗部の者も貴方方がトップに立つことを望んでいるんです」
「お願いします、蒼光さん!」
「蒼闇さん!」
 二人は困ったような雰囲気を見せ、顔を見合わせる。
「それは今返事しなくてはいけないことか?」
 蒼光が三代目に訊ねると、いや、と返ってくる。
「でしたら、少々時間を下さい。あまりにも急で即答いたしかねます」
 蒼闇が提案すると、三代目は快く承諾した。
「わかった、一週間でよいかの?」
「ええ、十分です」
 二人がすぐに拒否をせず、考えてくれることにその場にいた者は喜色の笑みを浮かべた。
二人は内心苦笑しながらその様子を見ていたが、ふと思い立ったように蒼闇が口を開く。
「三代目、ついでに提案があるのですがよろしいですか?」
「なんじゃ」
「我々の返事は一週間後に致しますが、その際、暗部の者達全ての了承が本当に得られるのか確認がしたいので、招集を掛けていただけませんか? 全ての者に支持を得られないのではトップに立っても何も出来ませんし、命に関わります。どのようなことがあっても、従う事に異議がないという裏づけが欲しいのですが」
 蒼闇の提案に三代目は少し考え重々しく頷く。
「蒼闇の言うことは正論じゃ。よかろう、一週間後暗部全てを召集してその場で暗部総隊長、総副隊長を決めることにする」
「御意」
「御意」
 三代目の言葉に了承する蒼光、蒼闇、氷月達。
一先ず話は終わったと言うことで、氷月達は火影の目の合図に一礼して退出した。
残ったのは三代目と蒼光、蒼闇の三人のみ。
「…じいちゃん、初めて聞いたんだけど、本気?」
 周囲に自分達以外の気配がないのを確認した蒼光は変化を解いてナルトに戻り改めて三代目に訊ねる。
「本気じゃ。ナルトもシカマルも上に立つ者としての力も統率力も申し分ない。ぜひ引き受けて欲しいのじゃが」
 三代目の褒め言葉にナルトは困った表情を浮かべた。
「でも、じいちゃんわかってる? 俺は里にとって忌み子、九尾の器だよ? 真実はどうあれ里の者はそう思ってる。なのに裏で実権握っていいの?」
 ナルトの自分を卑下する言葉に三代目も変化を解いたシカマルも苦い顔をする。
「ナルト! 自分を卑下するではない! 上層部や里の者がどう言おうとおぬしは里の英雄で、神子。神をその身に宿しているのじゃ。わしもホムラ、コハルも総隊長就任を喜びこそすれ、厭う事は絶対にない!」
「じいちゃん……」
「ま、ナルが暗部総隊長、俺が総副隊長っていうのが妥当でしょうね。暗部が動かせるのであれば、俺達も動きやすくなる」
「シカ!?」
 シカマルの言葉に耳を疑うナルト。
こういった重責を担う地位を一番嫌っていたのはシカマルだったはず。どういう心変わりなのか。
「ナル、俺はお前がトップに立つなら喜んで引き受ける。お前が過ごしやすい環境を作るのに多少権力があったほうがいいからな」
「シカ……」
「誰だって幸せになる権利はある。俺も、お前もな。俺はナルと一緒に幸せになりたい」
 はっきりと宣言され、ナルトは泣きそうな顔になり、その後切なげな笑みを浮かべる。
「ありがと、シカ。でも俺はいい、シカがいるだけで十分だ。これ以上は……望まない」
 望んではいけない―――シカマルにはそう聞こえた気がした。
理不尽な扱いを甘受し、それでいいと言う。
愚かな里を恨みながらも哀れに思い、憎みきれずに里を愛しいと思う。
三代目が慈しむ里だからこそ愛そうと思う。
 そして人の命を自らの手で奪っているその贖罪として幸せになってはいけないのだと望んではいけないのだとナルトは思っているのだ。
 まだ、ナルトの心の全てを支えてやれていない。
シカマルは口惜しい思いを抱きながら、ナルトを見つめた。
「でも、それとは別に、暗部総隊長の任は受けるよ。シカが総副隊長になるって言うし、俺が引き受けることでじいちゃんの責務が少しでも減るのであればそれに越したことはない」
「ナル……」
 シカマルはナルトの思いに言葉が詰まる。
 どこまで人のことばかり考えるのか。
自分の事を少しでも考えてくれたらどんなに嬉しいことか。
シカマルは心の中で彼が幸せになりたいと求める日が必ず来るように支えていこうと、心を開かせて見せると強く思った。
「……では、二人に依存はないということでよいか?」
「はい」
「うん」
 三代目は二人のやり取りを聞いて思うことがあったのか複雑な表情をしていたが、シカマルに任せるつもりなのか何も言わず、総隊長・総副隊長の任についての確認だけ取る。
「一週間後の夜、暗部全員を招集するように手配しておく。後はおぬし達に任せるが良いか?」
「かまいませんよ。後は俺がどうにかするんで」
「シカに任せたら問題ないね」
「そうじゃな。任せたぞ、シカマルよ」
「御意」
 シカマルの決意を込めた返事に三代目は満足そうに目を細める。
彼がいる限りいつか必ずナルトは幸せを求めるようになる。
そう確信めいた期待を抱き、おやすみなさいと挨拶をしながら退出する彼らを見つめていた。
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