本編1

□独占欲side N
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初めはそんなに気にしているつもりはなかった。
でも、どうしても忘れられなかったあの日の彼の姿。
通常、記憶など日が過ぎる毎に薄らいでいくはずなのに、逆に鮮明になっていく事に、戸惑いを覚えずにはいられなかった。
 不安になってこっそり三代目にも相談してみた。
けれど、話を聞いて帰ってきたのは嬉しそうな微笑と、曖昧な言葉。
「そうか、そうか、ナルトにもそんな思いが芽生えるようになったのじゃな。ナルト、それは悪いことではないぞ。おぬしにとっては良いことじゃ。今は分からずとも大きくなるにつれ、それが何なのかわかる時が来る。
相手がシカマルだというのが少々複雑じゃが…まあ、いいじゃろ、彼にならおぬしを任せて問題なかろうて」
 さっぱりわけがわからず、再度どういうことか訊こうとしたが、何故かそれ以上訊けず、素直に頷いてしまっていた。
 しょうがない、自分はまだ三歳の子どもなのだ、大人にならないとわからない感情なら大切にしまっておこう。
そう言い聞かせて開き直ったのがつい先日のこと。
なのに、この感情は何なのだ?
 暗部時の変化をどうするか、何気なく訊いた一言だったのに、シカマルの『どうせ面を着けるし、年を上げただけで問題ないだろう』という言葉にズキン、と心が痛んだ。
 思い出される記憶。
始めて見た彼の成長した姿。
 腰まである漆黒の髪を一つに纏めることなく背に流れるままに任せた彼は、月の光を浴びてなんとも言えない艶かしい雰囲気を漂わせていて。向けられた瞳は、静寂を湛えた漆黒。気を抜いたら吸い込まれてしまいそうなほど綺麗で。
そんな彼が自分だけに微笑んだ、あの瞬間。
あの姿を、他の者にも見られるのか?
そう思うと、胸が痛み、どす黒い感情が湧き上がってくる。それが苦しくて、切なくて。
この感情に気づいてくれないシカマルに、苛々して突っかかってしまった。
 こんなことが言いたいんじゃない、もっと違う言葉があるはずだ、そう心で叫びながらも、反発する言葉は止まらなくて。
自分が嫌になってくる。
 だけど、シカマルは嫌うことなく優しく接してくれて。蒼光と対の姿にすると言ってくれて。
痛んだ胸がすっと楽になったのに、楽になったのは本当に一瞬だった。
 変化した彼の姿はあの日の姿とまったく同じ。
たとえ瞳の色を変えていようと、チャクラ質が別人だろうと、蒼光とは対をなす、蒼闇の名に相応しい姿だろうと。
ナルトの眼にはあの日の彼と重なって見えてしまった。
 それは自分だけだ、誰も彼をシカマルだとわかるわけがないと頭のどこかで冷静に分析していても、感情だけがついていかなくて、またシカマルにつっかかる、嫌な自分。
 シカマルは気付いてくれて、理由を尋ねてくれたけれど、話すことはできなかった。
こんなどろどろとした心の内を明かして嫌われてしまったらという不安もあるが、何よりも上手く言葉にする自信が今のナルトにはなかったのだ。
理由は言えない、でもこのまま彼の姿を誰かに見られるのは嫌で、縋るように取り出した約束。
理由も言えないのに約束して、と願うなんて理不尽な事だとは分かっていても、どうしても頷いて欲しかった。
 結局、ナルト願いは聞き届けられ、シカマルは意外にも素直に受け入れてくれた。
それがどんなに嬉しいことだったか、きっとシカマルにはわからないだろうけど。
 優しいシカマル。
どんなわがままも笑って受け入れてくれるその心の広さ。
それは自分だけに向けられるものなのか、それとも誰にでも向けられるもので、自分は大勢の中の一人に過ぎないのか。
隣に立ちたい、命よりも大切だといわれた今でもそんな馬鹿な不安が湧き上がってくる。
 いつかこの心の内がシカマルにばれた時、どうなるのだろうか…
拒絶されてしまったらきっと、自分は壊れてしまうだろう。
 それは予想ではなく確信。
ナルトは、闇の思想に囚われそうになるのを辛うじて踏みとどまり、その日が来ない事を心の中で祈った。



 まったくの杞憂であることに気付かぬままに―――
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