Gift

□失恋野郎
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 その日は、散歩日和の気持ちの良い陽気だった。
 サイは、父親である奈良シカマルに買ってもらった真新しいパステル色鉛筆と スケッチブック1冊を持って木ノ葉の大通りを歩いていた。
 向かう先は奈良家の山だ。
 奈良の人間に用があるわけではない。
奈良家が管理する鹿の絵を描きに行く のだ。
 小脇に抱えた筆箱には、使ったことのない鮮やかな色鉛筆が納められている。
初めてこれを渡された時、サイの脳裏には母親の姿が思い浮かんだ。
 まばゆい金の髪に澄んだ蒼い瞳。
忍にしては派手な橙の服に、底抜けに明る い性格のうずまきナルト。
 それは表用に作った偽りの顔だけれども、あの優しい本質は裏も表も変わりは ない。
 サイはそんな母親を優しい色合いの色鉛筆に重ねてみたのだ。
だから、この色 鉛筆で描く最初の絵は自分にとって特別なものになるだろう。
 そう考えると、絵の内容も両親に関係したものにしようと、サイは決めた。
(父上と母上を象徴する絵…。)
 改めて考えてみるが、すぐには思い付かない。
 うんうんと悩んでいる息子に、シカマルは提案した。奈良の鹿を描かないか、と 。
 その日、表向き下忍であるシカマルは鹿の角切りのために休暇をもらっていたのだ。
 昼は表の、夜は暗部の任務で家を空けることの多い父親と、一日一緒にいら れることをサイは喜んだ。
最近はサイも暗部の仕事が忙しく、同じ屋根の下に暮 らしていてもろくに顔を合わせていない。
(鹿の絵を描いて母上に贈ろう! きっと喜んでくださる、鹿という生き物は父上 を連想させるだろうから…。)
 父親から貰った画材で描いた絵を母親に贈るというのは、素敵なアイデアだ。
喜ぶ母親の姿を思い浮かべて、サイは微かに口元を綻ばせた。
 その時、前方に見知った気配を捉えてサイは立ち止まった。
 大通りは当に過ぎ、この先は民家が数件と林しかない。
さらにその先は奈良家 の私有地だ。
 気配は複数だった。
 上忍と下忍、そして大好きな母親の気配を瞬時に察したサイは、それが父親を 除いたカカシ、アスマ、紅の下忍3チームだと気付いた。
 このまま進めば彼等と顔を合わせることになる。
見慣れない子供が一人、奈良 の土地へ向かえば声をかけられるのは必須だ。
しかも、今は鹿角の採取時期だ から警戒するだろう。
 奈良の角薬はお金になるのだ。おこぼれを頂戴しようという輩は多い。
 距離的に考えても、既にサイの存在は上忍達に知られているだろう。
(このまま進むか、瞬身を使うか…でも余計に怪しまれるかな。)
 一瞬の躊躇は、しかし逆に上忍達の意識を引いてしまったようだ。
 彼等の注意が向けられるのを感じ、サイの肌が緊張でザワリと粟立った。
(考え事をしていたとはいえ、暗部の者としては失態だ。)
 母親の心配げな気配も感じ、肩の力をそっと抜く。
一つ、深呼吸をして焦る心を 落ち着けた。
(大丈夫ですよ母上…でもどうしようか。)
 大人数でゆっくり歩く集団よりも、サイの方が幾らか速い。
 サイは術を使い、暗部時の姿に変化した。
本来の姿を上忍達に覚えられるより 、リスクは少ないと考えたのだ。

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