深淵シリーズ短編集

□闇に思ふ
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「……失礼いたします」
 静かに入室した刹華に三代目は優しい笑みを浮かべて出迎える。
「帰ったか。今日は遅かったの」
「申し訳ございません。任務自体は早々に終わったのですが、執務室に用があり一度戻っておりましたので」
「そうか。何もなければよいのじゃ」
 三代目の気遣いに内心ほっとしつつ、刹華は任務の報告を行った。
任務報告書を受け取り、確認した三代目は、ふと思い出したように机の上に置かれた長細い箱を刹華に差し出す。
「……これは」
 軽そうに見えたのに、持ってみるとずしりと重い箱に不思議に思いながら三代目に訊ねると、三代目は笑みを浮かべたまま告げた。
「それはおぬしへの誕生日プレゼントじゃ。わしからではなく守焉からのじゃが」
「守焉?」
 思わぬ人物の名に刹華はどきりとしながら三代目に経緯を尋ねた。
「守焉、と言えばあの解部総轄長の守焉ですね。何故彼が私の誕生日を知っているのですか」
「わしは教えてはおらんぞ。あやつは里で知らぬ情報はないのじゃろう。会ったことのない自分が直接渡すのは不審がられて受け取ってもらえないだろうから渡して欲しいと頼まれての」
「……」
 刹華は己の誕生日を知っていると言う守焉の考えがわからずじっと箱を見つめた。
 そんな戸惑いを三代目も感じたのだろう、孫を見るような慈愛のこもった瞳で刹華を見るとそっと口添えをする。
「本邸でゆっくり中身を確かめてみるといい。わしからのプレゼントは明日一日の休暇じゃ。ゆっくりしなさい」
「……はい」
 刹華は三代目の口添えに素直に頷き、頭を下げて退出する。
三代目はそれを見送った後、ふう、と息を吐いて呟いた。
「刹華、否、ナルトにあやつの心が届くとよいのお……」
 先刻、刹華が訪れる前に来ていた守焉に明日はおぬしにとってどんな日かと訊ねた時、『一番憎い日』と答えられて一瞬肝が冷えた。
 しかし、その後に続いた言葉は彼らしいもので。
 初めは純粋な興味が強かったナルトへの執着がここにきて別の想いに変わっていっていることがわかって。
 複雑ではあるが、上手く互いに伝わればいいと願わずにはいられなかった。




『……明日ですか。一番憎い日ですよ。怒りが込み上げるくらいに、ね。そしてなによりも一番愛しい日だ―――』

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