本編1

□妖花
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 そうして持ち帰られた枝は、ナルトの家の庭に植えられ、彼の神力で一気に元の姿まで成長した。
しかも、分け与えられた力は人間に削られた命を補って余りあり、氷艶華はナルトの元でまた穏やかに過ごせるようになったのだ。
「氷艶華、またあの時のことを考えてるな。気にする必要はないとあれほど言ったのに」
 不意に手を掴まれ抱き寄せられた氷艶華は驚いてナルトを見たが、その顔はだんだん喜びに満ち、そのままナルトに抱きつく。
『あの時と同じじゃ。我が君はほんに温かい……』
 胸に顔を摺り寄せ、温もりを確かめる氷艶華にナルトは、優しく微笑んで見つめた。
「……俺というものがありながら、目を離した隙に浮気か? ナル」
 背後から聞こえてきた声にナルトは今まで氷艶華に向けていた表情とは明らかに違う喜色を浮かべ、振り向く。
 氷艶華は少し残念そうにしながらもナルトから離れ、二人の様子を見守った。
「シカ! お帰りなさい! ずいぶん早かったな!」
「ただいま、ナル。任務自体は難しくなかったからな。急いで終わらせてきたんだ」
 ナルトはシカマルに抱きつき、シカマルはナルトを難なく受け止め抱き締める。
そのまま、軽く口付けを交わした二人に、氷艶華は軽く吐息を吐いた。
『背の君はほんに酷いお人じゃ。妾と我が君との久々の逢瀬を邪魔するとは』
 少々非難じみた言葉に、シカマルも笑いながら反撃する。
「ナルは俺の恋人だ。自分以外の奴といちゃついてる姿を見て邪魔しない恋人が何処にいるんだよ」
『ほんに……意地の悪い方。まあ、それでも、我が君の為にはよう帰って参られたのはさすがぞえ』
 そう言うと氷艶華は穏やかに笑い、シカマルに近づいて膝を折った。
『背の君、お帰りなさいまし。ご無事のご帰還何よりお喜び申し上げまする』
「! ……ああ、ただいま。留守中ナルを慰めてくれたこと礼を言う」
 シカマルは、氷艶華の敬愛の礼に認められていることを感じ、嬉しそうな笑みを浮かべる。
 氷艶華が礼を尽くすのは、九尾と神子であるナルトのみ。
人間であるシカマルに礼を尽くす必要は全くない。
 しかし、あえて氷艶華がシカマルに礼を尽くすのは、ナルトの恋人であり唯一無二の存在であることを知っている為と、人間でありながら、妖に引けをとらない強さと頭脳を持っている為。
 ナルトも自分の恋人が認められていることが嬉しくて、笑みが絶えない。
『礼など不要……当然のことをしたまで。妾にとって我が君がお健やかでいらせられることが何よりの大事ゆえ』
「そうか」
 ナルトを思う気持ちを共有しあった二人は、お互いに小さく頷く。
意思を通じ合わせている二人に、今度はナルトがじれた。
「もう、シカ! シカこそ俺がいるのに浮気してる!」
「おい、ナル! そりゃないだろ、これくらいで浮気扱いされたらたまんねーよ」
 本気でないじゃれ合いだとわかっているため、笑顔が消えない二人に氷艶華が口を挟む。
『お二人とも、せっかくの月夜、騒がしいのは無粋ぞえ』
「あ、そうだった。シカ、氷艶華の桜と月がすごく綺麗なんだ。一緒に見たいなって思ってたら、シカが帰ってきてくれたから……」
 はにかみながら語るナルトに、ちらりと彼が絶賛する光景を見て、シカマルも同意する。
「ああ、確かに。せっかくだ、今宵はゆっくり花見としゃれこもうぜ。何か食べるもん持ってきてな」
「うん! 俺が何か作るから、シカお風呂に入って一息ついいて」
「サンキュー、ナル。お言葉に甘えさせてもらう」
「氷艶華も一緒にどう?」
『妾は次の機会に致しましょうぞ。我が君、折角願いが叶った今宵、背の君と水入らずで過ごされませ』
 ナルトの誘いは魅力的だが、恋人同士の逢瀬に水を差すつもりはさらさらなく。
氷艶華はあっさりと辞退する。
 それを残念そうにしながらも、氷艶華の好意をありがたく受け取り、ナルトもシカマルも桜の木に戻っていく氷艶華に礼を言った。
「―――万物には命がある。意思の疎通が出来るか出来ないか、それだけの違いだ」
「……それ、霧の口寄せの術書に乗っていた一文だな」
 突然ナルトが口にした言葉に、シカマルは乗っていた本の名を言い当てる。
「…そっか、霧の口寄せの術書か。ううん、さっきふと思い出したんだ。でも、万物に命があるのは当たりまえだし、意思の疎通が出来るか出来ないかなんてやってみなければわからない。氷艶華のことがあってそう思うようになったんだけど、どう思う?」
 首を傾げて問うナルトに、シカマルは少し考えて頷いた。
「まあ、真理だな。同じ種族でさえ、意思疎通が出来ないこともあれば妖と人間という種族の違いがあっても意思疎通ができることもある。やってみないとわからねえってのは、確かだ」
「うん。…さて、準備しなくちゃ。シカも早く!」
「ああ」
 何を思っていたのか訊ね損ねたシカマルだったが、どこかすっきりした表情のナルトに、まあいいか、と納得させて浴室へ向かう。
 ナルトが悩んでいないのならそれでいい。
彼が幸せであることだけが、シカマルのたった一つの願いなのだから。



 数十分後、支度を整えた二人は、満月と桜という幻想的な光景を楽しみながら穏やかな時を過ごした。
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