本編1

□戸惑い
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初めて見るその神の神々しさに、シカマルは思わず息を飲む。
「…神金緋…おはよう。出られるようになったんだ…」
 ナルトは数年ぶりに見る神金緋の姿に安堵すると共に、表に実体化できるまでに回復したことに喜びを感じ、微笑を浮かべた。
「おはよう…迷惑をかけてすまぬ。我としたことが無防備に微睡んでいた所に忌々しいチャクラを感じて我を忘れかけておった」
「忌々しい…? それってどういう?」
 不思議そうに訊ねるナルトに苦々しい笑みを浮かべた神金緋。
その横で、話を聞いて考え込んでいたシカマルは、ポツリと呟いた。
「…忌々しいチャクラ、九尾の怒り…それも我を忘れるほど。九尾がそこまでの怒りを纏うのはあの事件のことしかない。だとしたら…眷属の命を奪った忍のチャクラ…いや、それに似たもの? を感じた…?」
 頭の中を整理するように呟くシカマルには神金緋の視線が自身に向いたことに気がつかない。
仮にも土地神の前で平常心であるシカマルにナルトも神金緋も感心した。
「…そなた、なかなかに鋭いの。それに…闇の香りがする。名を、何と言う?」
 神金緋からの問いに考え込んでいたシカマルはようやく我に返り、一瞬罰の悪そうな顔をして頭を下げる。
「…挨拶が遅れて申し訳ありません。俺は奈良シカマルと申します」
 神金緋は怯えることなく真っ直ぐ視線を受け止めるシカマルを推し量るように見ていたが、やがてふと笑みを浮かべた。
「奈良…木の葉の忍の家よの。あれは確か闇に愛でられし一族。特にそなたは闇に愛されているようだ。神子の傍にそなたのような者がおるとは……」
 闇に愛でられし一族。
そのようなことは初耳だった。
ナルトも、シカマルですら聞いたことの無い話。
 表情が表に出ていたのだろう、神金緋はくつりと笑い、二人を面白そうに見ながら口を開く。
「知らぬのも当然のこと。間違いなく一族の文献にも載っておらぬわ。我ら神、妖のみが知ることゆえの。そなたら奈良一族が影使いたる所以がここにある。遺伝か体質か…奈良のものは大なり小なり闇に好かれておる。好かれるが故に闇は本人達が知らぬうちに力を与えるのだ。そしてそれが秘伝を生み出す」
「…なるほど、そういうことですか」
 陰の性質、それを奈良一族が持って生まれるのは闇に好かれ力を与えられるから。
そしてそれが秘伝の術・影の忍術の使用を可能とする。
だからこそ奈良一族のみが影縛りに代表される数々の忍術を使うことが出来るのだ。
 初めて知らされた新しい事実にシカマルは納得すると共に興味深げに目を輝かせていた。
新しい知識を求めるのはシカマルにとって食事をするのと同意のこと。
 そんなシカマルに神金緋も覚醒前とは打って変わって機嫌が良さそうにしていた。
「呑み込みも早い。やはり闇に最も愛されし者よの。神子、この者大切か?」
 突然話を振られたナルトは驚いていたが、やがて誰もが魅了する笑みを浮かべて頷いた。
「…うん。シカは何よりも、大切。俺の…恋人…だから」
 照れながらも神金緋に正直に答えるナルトに、シカマルは顔が緩んでいくのを止められず、咄嗟に口元を手で覆った。
 そんな初々しい二人を見た神金緋は楽しげに笑う。
「そうか。我が寝ている間に、神子にそのような存在が出来たのか。よい、シカマル、我はそなたを認めよう。闇の愛し子なれば信頼できる。我は神金緋。我の真名を口にすることを許す」
 神金緋はシカマルが一切自分の真名を口にしなかったことに気付いていた。
その意味する所はナルトから真名を知らされていなかったか、あるいは聞いていても許可無く土地神の真名を呼ぶ危険性を知っていて口にしないかだ。
 その判断が出来るだけでも彼の聡明さが窺えるし、何より彼の物怖じしないが礼儀はしっかりとわきまえている態度も気に入った。
 そして、何より大切な神子の恋人だという。
 …恋人だと告げるナルトのあの表情は眠りにつく前に見た姿には無い、よいものだった。
だからこそ神金緋はナルトや代々の神子にしか許さなかった真名を呼ぶことを許したのだ。
 逆にその許しに戸惑ったのはシカマルだった。
 あまりにもあっさりと真名を口にすることを許されたことに、時間が掛かると覚悟していた自分が狐につままれたような気になったのだ。
「…いいん、ですか? 神子でもない俺が貴方の真名を口にしても」
「よい。敬語も要らぬ。そなたは神子の伴侶であろう?」
「…っ、ああ。…神金緋、ありがと、な」
 神金緋にナルトの恋人、いや、伴侶として認められたのだとわかったシカマルは、思わず顔を綻ばせる。
ナルトも横で嬉しそうに笑い、シカマルに寄り添った。

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