本編1

□戸惑い
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シカマルがイタチと話していた頃、ナルトはどんどん重くなる体に耐えかね木に凭れて膝をついていた。
 何とか禁域の森までは帰り着いたものの、そこまでが限界で一歩も動けなくなったのだ。
「…なんで…」
 急激な体調の悪化に、ナルトの心は不安に揺れていた。
 とにかく原因を探ろうと楽な体勢をとったナルトは、次の瞬間勝手に湧き上がる憎しみの感情に体をきつく抱き締めた。
「うっ、ああっ!」
 その感覚には覚えがあった。
 自分の意思とは関係なく湧き上がる負の感情。
それは自分ではなく体内に眠る、かの神の感情。
「神金緋…?」
 ナルトが名前を呟くと、負の感情と共に湧き上がる禍々しいチャクラ。
ナルトは咄嗟に印を結び外部に漏れないように自らの周囲に結界を張った。
 結界を張れたことで自分のチャクラがまだ使えることがわかり、ナルトは僅かに安心する。
 その刹那―――
―――ユルセヌ…ユルスマイゾ… ―――
 突然聞こえ始めた声にナルトは思考が止まった。
「しき…び…?」
 激しい怒りに満ちた声。
 その主が何者なのかナルトはすぐにわかった。
ナルトの腹に封印され、自ら望んで眠りについていた九尾―――神金緋の声に間違いない。
「神金緋!」
 ナルトは九尾の真名を呼んだが、彼の声は神金緋に届かず、怒りに満ちた声はなおも続いた。
―――ワスレルモノカ! アノチャクラ! ユルスマイゾ! アノモノタチニフクシュウヲ―――
「駄目! しっかりして神金緋!!」
 ナルトは体内から湧き上がる神金緋のチャクラを必死に抑えながら呼びかける。
 眠っていたはずのかの神を何が刺激したのだろうか。
 原因がわからぬまま、とにかく暴走だけは避けようと今自らが扱えるチャクラの全てを神金緋の力を抑えるために使用する。
「神金緋、俺の声を聞いて! お願いだ!」
 ナルトの心からの叫びは神金緋になかなか届かず、ナルトは次第にどうしていいのかわからなくなる。
「ナルっ!」
「!」
 そんなパニックに陥る寸前にナルトを呼ぶシカマルの声が聞こえ、ナルトは弾かれたように顔を上げた。
 シカマルはナルトの姿を見るなり事態を悟ると、チャクラの消費を防ぐ為に変化を解き、結界内に入り込む。
「シカぁ…っ」
 泣きそうな顔で助けを求めるナルトを、シカマルは励ますように抱き締めるとナルトの結界の外にもう一重結界を張った。
「ナル、結界を解け、俺が変わる。ナルは九尾の力を治めることだけに集中しろ」
「う…ん、わかった…っ」
 ナルトは結界を解くと、全てのチャクラを集中させ、九尾の力にぶつける。
同時に強く神金緋の名を心の中で呼び、神金緋の覚醒を促した。
―――神金緋…!! 俺の声を聞いて……っ―――
 どくり、と体中のチャクラが共鳴し、神金緋の力が負の状態から正の状態に変わっていくのを感じる。
 そして、ようやく聞こえてきた優しい声。
―――神子…すまぬ… ―――
 謝罪と共に力が集束し、目の前に人の姿を取った九尾・神金緋が現れた。

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