本編1

□戸惑い
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「火遁・鳳仙火の術!」
 渾身のチャクラを込めたイタチの術は敵を一人残らず焼き尽くし、地面を舐めるように這い回って消えていく。
 期待を外すことなく応えたその手腕に蒼光も蒼闇も満足そうに笑んだ。
「術者のレベルで術の強度も決まるというが…なかなかやるじゃないか」
「ええ。もう少し鍛えれば暗部に入っても遜色なさそうですね」
 楽しげに話す二人の評価にイタチは乱れた息を整えつつ、笑みを零す。
「ありがとうございました! それと、軽率な行動申し訳ありませんでした!」
 イタチの謝罪に蒼光と蒼闇はますます笑みを深めた。
「その謝罪は何に対するものですか?」
「…夜、ここにいてあなた方の手を煩わせてしまったことへの謝罪です。夜は暗部の領域。特に里の外れに位置するこの森に俺みたいな者がいるのは自殺行為だ。それを承知しているのに、意図的ではないにせよここにいたのは明らかに俺の責任です」
 言い訳をするでなく、淡々と自らの過ちを認めるイタチの姿は蒼光と蒼闇のお眼鏡に適うもので。
笑みが消えることはなかった。
「…なるほど、そのあたりもしっかりわかっているなら俺達が言うことはない。次はないぞ、イタチ」
「はい、ありがとうございます!」
「…実力はよくわかりましたし、もう少し腕が立つようになれば私があなたを暗部へ推薦しましょう。暗部に入る意思があるのであれば、ですが」
 思っても見なかった蒼闇の言葉にイタチの目が輝く。
強くなるには打って付けの場所だ。
「! ぜひ、ぜひお願いします!」
「わかりました。覚えておきましょう」
 イタチの即答に蒼光と蒼闇は頷き、周囲の後処理を始める。
しかし、処理の為に術を行使しようとした蒼光は何か違和感を覚えて動きを止めた。
「…?」
「? 蒼光、どうしました?」
「……いや、なんでもない」
 目ざとく気付いた蒼闇に訊ねられたものの、違和感は一瞬のことで、蒼光は気のせいだと判断して印を結び直す。
 蒼闇も蒼光にそれ以上の変化もなかった為、特に気にすることなく未だ傍にいるイタチに声をかけた。
「…イタチ、あなたは先に帰りなさい。これ以上遅くなるのもよくないでしょう」
 蒼闇の言葉にイタチは空を仰ぎ、かなり遅くなっていたことに気付く。
「すみません、では俺はこれで失礼します」
 イタチは蒼光と蒼闇に礼をすると、その場から離れる為、二人に背を向けた。
 イタチが視界の範囲から消えるまでのほんの数分。
その間に蒼光は後処理を完璧に終えていた。
「…相変わらず早いですね」
 一人で処理してしまった蒼光に蒼闇が声をかけると、蒼光は振り向いて苦笑する。
「あんな光景いつまでも見たくないだろう。早く処理してしまうに限る」
 血の臭いにいつまでも包まれる気はないと告げる蒼光に蒼闇も頷き、近付いて腕の中に閉じ込める。
「蒼闇?」
 突然の行動に戸惑い顔を上げた蒼光に、蒼闇は無言で己と蒼光の面を外して唇を寄せた。
「そうっ…ん、んんっ…」
 問いかけようとした蒼光の言葉を口で塞ぎ、蒼光の口内を思うままに蹂躙する。
初めは抵抗しようとしていた蒼光だったが、やがて体の力を抜き、蒼闇の背に腕を回した。
 蒼光が受け入れたのを見計らったように蒼闇の口付けは激しく、深くなっていく。
それに必死で答えていた蒼光は自らが立っていられなくなるほどの快感に襲われ、全てを蒼闇に預ける形になった。
 その瞬間、蒼闇は何故か蒼光を支えるように回していた手で解印を結び、チャクラを開放する。
「っ、んんっ!」
 それによって蒼光と蒼闇は共に本来の姿、ナルトとシカマルに戻っていた。
「……っハア…っ シ、シカっ、どうしてっ」
 ようやく開放されたナルトは、力の入らない状態でシカマルに縋りながら抗議の声をあげる。
何も知らされていないナルトには、いくらなんでもこれはやり過ぎではないのかと思えたのだ。
 ナルトが抗議するのも無理はなかった。
視界の範囲にいないとはいえ、イタチの気配はまだそこにあり、今の状況を見られたかもしれないからだ。
 シカマルはそれにすぐには答えず、イタチの気配が今度は急いで遠ざかるのを確認すると、ナルトを宥めるように額に口付けた。
「わりい、ナル。試したかったんだ。イタチはナルのこと、憎悪で見ていなかった。むしろ好意を持っていたからな。本当のナルを知った反応次第では仲間に巻き込むつもりだった。それに、ナルを疲れさせている原因である視線も、全てを明らかにすれば無くなるだろ」
「…シカ、だからって…」
 突飛過ぎる策にナルトは呆れたようにシカマルを見た。
 内容はどうあれ理に適っているので、それ以上責めることもできず、小さく溜息を吐いてシカマルの胸に顔を埋めた。
「こんな賭けみたいなやり方、シカじゃなかったら許さない所だけど…シカだから許す。勝算があるんだろ?」
「ああ」
 自信たっぷりのシカマルに、ナルトは小さく笑い体を離した。
「じゃあ、後は任せる。…俺は帰っていい?」
 ナルトの確認にシカマルはすぐに頷く。
「ああ、帰って早く休めよ。…少し顔色が悪い」
「うん…ありがと」
 笑顔で返したナルトだったが、その顔色は先程までとはうって変わって青白く、シカマルはナルトの急な変化に一抹の不安を覚える。
月の光のせいか、と思いたかったが、それを差し引いても今のナルトの顔色は悪い。
「シカ、俺は大丈夫。家で横になって待ってるから」
 顔に不安が出ていたのだろう。
ナルトはシカマルに大丈夫ともう一度告げると、頬に口付けを送る。
 シカマルは、ナルトの言葉になるべく早く帰るから、と告げてその場から姿を消した。

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