本編1

□緋色の闇
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暗部入隊当日の朝、ヒナタは迎えに来た蒼闇に連れられて禁域の森に入った。
 初めに案内されたのは森の奥にあるナルトの本邸。
結界を抜けると現れた大きな屋敷にヒナタは驚きの声を上げた。
「ここがナルの本邸だ。俺も一緒に住んでる。ヒナタがいつでも来れるようにチャクラに反応して結界が開くようになっているから」
 結界の中に入ってすぐに変化の術を解いたシカマルは、驚いているヒナタに簡単に説明をした。
「シカマル君とナルト君、二人で住んでるの?」
「ああ。表は影分身に任せて俺達はこっちでな。ああ里の奴らが煩いとナルが休んでいられないからな」
「……うん、そうだね」
 ヒナタは肯定しながら二人の力に驚嘆していた。
 シカマルはなんでもないことのように話しているが、影分身を出したまま日常生活をするなどよほどの実力がないと出来ることではない。
普通であれば夜眠りに落ち意識がない状態で影分身を保つことなど至難の業だし、第一、チャクラが持ちこたえられず倒れてしまうだろう。
 推測するに二人は恐らく表用の影分身を出したまま、暗部の任務も行っているはず。
それに耐えうるチャクラ量と緻密なチャクラコントロールを持つ忍など、ほとんど存在しないだろう。
 この二人のレベルまでこれからヒナタは追いつかなくてはならない。
そう考えるとどうしても不安になってしまう。
「ヒナタ、焦るな。お前は自分の力に自信を持つことから始めるといい」
 考え込むヒナタを見透かしたようにシカマルは言葉を挟む。
ヒナタはシカマルの優しさに素直にはい、と頷いた。
「ヒナタ、来たのか」
 二人が話していると、表では滅多に見られないシンプルな黒一色の服を身に纏ったナルトが家から出て来た。
「ナル」
「ナルト君…」
 ナルトが出てくると同時にシカマルの雰囲気が一気に柔らかくなり、ヒナタもわずかに頬を紅潮させる。
「シカ、お帰り。ヒナタいらっしゃい」
 二人の反応に気付いた様子もなく、ナルトは穏やかな笑顔で二人を迎えた。
「ただいまナル」
「お、おじゃまします」
 ナルトはシカマルの横に立つと、視線をヒナタに向ける。
「ヒナタ、ここのことはシカから聞いた?」
「あ、うん」
「そう。結界はヒナタを拒まないから、遠慮せずにいつでも来いよ」
「うん、ありがとう」
 ヒナタの嬉しそうな表情にナルトも笑顔を見せる。
そのままシカマルに視線を移し、状況を把握すべく問い掛けた。
「で、シカ、今日のことはもう話したの?」
「いや、これからだ」
「そうなんだ、じゃ俺から説明しようか」
「ああ、まかせる」
 二人でやり取りした後にヒナタを見たナルトは、今日のこと、と聞いて表情を改めたヒナタに話し始めた。
「今夜、三代目の所に行く前に覚えて欲しい術が二つある。暗部として動くには必要となる術だ」
「二つ?」
「ああ。そう難しいものじゃないから一日あれば問題ないと思うんだけど」
 ヒナタは一日の期限という所に不安を覚えたのか表情を曇らせたが、逃げることなくナルトに向かって、教えて下さいと頭を下げた。
「うん、その意気込み忘れるな。…じゃあ、術の話に入る。一つ目の術は影分身だ。これがどうして必要なのかは言わなくてもわかるよな?」
「はい」
 ヒナタはナルトの言葉に肯定する。
表と裏の顔を持つことになるヒナタは、ナルト達同様この術が使えないことにはこの先問題が招じることは間違いない。
「影分身の術の印は知ってる?」
「う、うん。記憶が封印される前に父上との稽古で印だけは覚えたけど…実際使ったことはないの」
「そうか、知っているなら早いな。まずはやってみて」
「はい」
 ヒナタは意を決してチャクラを練りながら印を結ぶ。
「影分身の術!」
 軽い音と共に術が発動し、ヒナタが二人そこに立っていた。
「……まあまあ、だな」 「ああ、初めてにしては上出来だ」
 ナルトとシカマルは、ヒナタの影分身と本体を見比べて満足そうに一つ頷く。
「ヒナタ、後はチャクラの配分を考えるといい。下忍であれば下忍程度の、上忍であれば上忍程度のチャクラ配分があるだろう。均等に二分する必要はないからな」
「はい」
「取り敢えず調節だけなら後でも大丈夫だろ。先にもう一つの術、絆話(はんわ)を教えておく」
「絆話……?」
 ヒナタは聞いたことのない術に首を傾げた。
「絆話は俺とシカが作った術だ。暗部には専用の通信手段がある。それが心話通信と呼ばれるものだ。これは暗部の刺青を媒介に心話の術を使って連絡を取り合う手段なんだけど、俺達は何かと秘密が多いから、二人だけの通信手段が欲しくて心話通信をヒントに新しい術を作ったんだ」
「それが絆話、なんだね」
「その通り」
「私がそれを覚えてもいいの?」
 二人だけの通信手段として作ったと聞いたヒナタは、ナルトとシカマルに確認する。
「かまわない」
「ヒナタも俺達の秘密を共有する大事な仲間だからな」
「ナルト君…シカマル君……ありがとう」
 仲間と言ってもらえたことがヒナタにはとても嬉しかった。
それだけで気分が高揚し、やる気が湧いてくる。
「それじゃ、絆話の印を教えるぞ、印自体は難しくないが、少々コツがいるからな」
「はい!」
 シカマルとナルトの教え方はとても上手く、ヒナタは昼過ぎには絆話も影分身も自在に扱えるようになっていた。
もちろん、ヒナタの才能によるところも大きく、ナルトもシカマルも予想以上の出来に笑みが絶えなかった。
 昼食を兼ねた休憩を一度挟み、午後からは実力を測るために軽く三人で身体を動かした。
 ヒナタは記憶を取り戻した日から今日まで二人に言われた通り修行し、自分の現在の力を把握し、感覚の誤差をしっかりと修正してきていた。
 やはり日向の血筋、探査能力や体術はかなりのもの。
それに加え、チャクラコントロールも上手く、ナルトに医療忍術も向いているな、と言わしめたほどだ。
 一通り体を動かした三人は、夕方になると夜の任務に備えて体を休める。
シカマルが夕食の支度をし、ナルトが家の中をヒナタに案内して、楽しい一時を過ごした。
「さて、じゃあ行きますか」
「ああ。ヒナタ、お前も変化しろ」
 夜も更けて子ども達が眠りにつく時間になると、シカマルとナルトは変化の術を使い、暗部総隊長の蒼光と総副隊長の蒼闇に変わる。
 ヒナタもナルトに言われて変化の術を使い、彼らと同じく十八歳頃まで成長した姿になった。
髪の色は黒に近い濃紺から腰までの金髪に。
瞳は白眼から日向一族と悟られない為、菫色の瞳に。
美しい女性に変化したヒナタを、ナルトもシカマルも少々眩しげに見つめた後、目で合図して三代目の執務室へと向かうべく、瞬身の術を使った。
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