本編1

□木ノ葉の知神
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「暗号解析部隊と諜報部隊以外の部隊の長、補佐については戸惑いながらも皆納得して引き受けてくれたのじゃがの。その二つだけはどうしても決まらぬのじゃ。諜報部隊の長に任命しようとした者は一か月前に任務中に殉職。それはおぬしらも知っておろう」
「ええ」
「ああ、知っている」
 諜報と抹殺という二つの目的があり、諜報に優れている者ということで長候補だった者が向かった任務。
任務完了後、手傷を負って帰還している所に別の里の忍と遭遇し、命を落としたという知らせは蒼光も蒼闇も聞いていた。
 二人もこれから伸びると思っていた人物だっただけに、惜しい人材を亡くしたと話していたのでよく覚えている。
「補佐に任命し、先に了承した夕日紅に長を任せようと思ったのじゃが、長になるにはまだ経験不足。本人も補佐はかろうじて務められるとしても、長を務められる自信はないと言うてのう。他の者を探しはしたがなかなか見つからんのじゃ」
「……なるほど。それで長の地位が空白だというのですね。それはわかりました。では暗号解析部隊についてはどうなのです? 長候補は確か山城アオバでしたね」
 候補の不慮の死については仕方がない。次の候補と言ってもそうそう長になれる人材は見つかるものでもない。
 今後のことを考えればそこは慎重になるのは当然で、蒼光も蒼闇も納得のいく話だった。
 では暗号解析部隊についてはどうなのか。
 暗号解析部隊の長候補が殉職したという話は聞いていない。現在も健在で任務をこなしているはずだ。
 そんな意志を込めて三代目を見つめると、三代目は困った表情を浮かべて話し始めた。
「アオバはのう、すっかり自信を無くしておるのじゃ。『どうか解部の長には蒼闇様を任命してください! 俺には無理です!』の一点張りでのう」
「……なぜそこに私が?」
 脈絡もなく名を出されて疑問の声を上げる蒼闇に、三代目は溜息を吐いて答えた。
「おぬし、以前難解な暗号が解けずに困っていた解部の手助けに出向いたじゃろう。その時の手際の良さにすっかりおぬしに傾倒してしもうたらしい。そのおぬしを差し置いて実力が下の自分が長になることはできぬと言い張るのじゃよ」
 三代目の話を聞いて蒼闇もああ、と思い出した。
「暗部の任務帰りに少し手を貸した、あの時ですか。あの程度でそう思われても困るのですが」
 蒼闇にしてみれば、ほんの少し手を貸したに過ぎないことで大して気にも留めなかったことだった。
 まさかそのたった一度の手助けで傾倒されるとは。
「……蒼闇は少し自分の能力の価値を考えるべきじゃないか。お前にとって大したことがなくても、アオバにとっては大したことなんだろう」
 傍観者に徹していた蒼光から呆れたような声が飛ぶ。
 だが、それに関しては全暗部を傾倒させている蒼光も人のことを言えないのだと本人は気づいていないのだろうか。
「お言葉ですが、蒼光。貴方にも同じ言葉をお返しいたしますよ。まあ、私も軽率でしたね。その点は反省します」
 ふう、と溜息を吐いてそう告げれば、二人のやり取りを見ていた三代目は一つ咳払いをして口を開いた。
「まあ、そういうわけじゃ。三か月の間、何度も話をしてみたがアオバは引き受けようとせん。補佐であれば何とか引き受けてもよいが長は無理だと言って譲らん。おぬしには暗部総副隊長としての責があるからわしとしても解部の長に、とはあまり言いたくなかったのじゃ。しかしの、このまま長が定まらず体制が整わねば危険じゃ。何かが起きる前にどうにかしておきたいのじゃ」
 三代目の言いたいことは蒼闇もよくわかる。だから無下に断るわけにもいかない。
 暗号解析は嫌いな分野ではないし、補佐であれば引き受けるとアオバが言うのであれば譲歩する余地もあるかもしれない。
「そうですね……考えておきます。アオバとも一度話をしてみましょう。その上でどうするか決めます。それでいいですか、三代目」
「うむ。すまぬがよろしく頼む」
 蒼闇の返事に安堵の表情を浮かべた三代目が礼を述べる。
話がひと段落ついたところで、蒼光が口を挟んだ。

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