本編1

□覚悟
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「ちょっと、本気なの!?」
 朝の修行の時間、顔を合わせるなり叫んだいのにシカマルは思わず顔を顰めた。
 ここ数週間は特に忙しく、ほとんど睡眠がとれない頭にいのの叫び声はかなりきつい。
「いの、うるせえ。もっと静かな声で喋ってくれ」
 シカマルの声に疲れが滲んでいることに気付いたいのは、気まずそうな顔で押し黙る。
 静かになってようやく一息吐いたシカマルは、「それで?」と続けた。
「なにが本気だって?」
「そうよ、昨日ヒナタから聞いたのよ! 私とチョウジをいきなり暗部の隊長格に入れるって」
 冗談よね、と訊ねるいのにシカマルはその話か、と呟いた。
「本気だぞ。こんなこと嘘言っても意味ないだろうが」
 当然のように言い切るシカマルに、いのもチョウジも絶句する。
そして、おずおずとチョウジが言った。
「……ねえ、シカマル。僕達、三ヶ月で確かに暗部に入れるまでの力はついたと思う。それだけの努力もしたし、シカマルやナルトにも助けてもらったからね。でも、隊長クラスにいきなりなるのは暗部の人達の気持ちや経験不足から考えても無謀なんじゃないかな」
 チョウジの言うことは最もだった。
 通常であれば彼の言は正しく、シカマルもいのやチョウジでなければ認めなかっただろう。
「そんなことは百も承知だ。わかった上で俺もナルもお前達を隊長格に据えることに決めた」
「どうして?」
 わかっていてそれでも自分達を隊長格にするのは何故なのか。
いのとチョウジが疑問を口にすると、シカマルは己の考えを話し始めた。
「近々暗部の部隊編成を一新することは修行を始める前に話したよな」
「ええ。数年計画で一人一人の実力を測り、実力の底上げと意識改革を行ってから部隊を新しく編成し直すって言ってたあれでしょ」
 いのが即答し、チョウジが頷く。
 修行の初日、暗部になるなら知っておいてくれと言われて聞いた暗部の情報の中にその話があり、シカマルとナルトの計画の高度さに感心したのを二人はしっかりと覚えていた。
「ああ、そうだ。俺達は全てを踏まえて四隊十二班体制が理想的だと考えた。暗部総隊長と総副隊長の下に四人の隊長がつき、四人の下に三班を置く少数精鋭だ。だから四人の隊長には能力はもちろん、俺達が信頼できる者が欲しかった。能力は素質さえあれば伸ばすことが出来るが、信頼できる者はそうはいかねえ。その点、お前達は俺達の全てを知り、信頼もできる。三ヶ月で暗部並みの力も得た。だからお前達を選んだんだ」
 信頼できる者、自分達をそう認めてくれたことにいのもチョウジも言いようのない嬉しさが込み上げてくる。
 そんな気持ちが顔に出ていたのだろう。
シカマルはふと表情を和らげて笑みを浮かべた。
「……それにお前達は必死で気付かなかっただろうが、最初の一ヶ月程でお前達はかなり伸びたからな。レベルを隊長クラスに合わせて課題を出していたんだ」
「えーっ、うそ!?」
「それ、本当?」
 そんな裏があったとは、ついていくのも必死でまったく気付いていなかった。
 確かに厳しい修行だったが、下忍にすらなっていなかった自分達には当然だと思っていたのだ。
「本当だっつーの。だから実力は問題ねえ。後は経験だけだ。ってことで、入隊する前に何度か俺達の任務に同行してもらう。いいな」
「! はい!」
「わかりました!」
 シカマルの鋭い視線を受けて自然に気が引き締まったいのとチョウジは、真剣な表情で返事をする。
―――シカマルとナルトの期待に応えたい―――
 話を聞いた二人に先程までの不安や卑下する気持ちは欠片もなく、ただそれだけを強く思っていた。
 彼らの覚悟を感じ取ったシカマルは満足そうな表情で頷き、さあはじめるぞ、と修行開始を促した。

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