本編1

□戸惑い
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「シカぁ〜」
 家に帰ってくるなり甘えた声でシカマルに抱きついてきたナルトをシカマルは驚くことなく抱きとめる。
「どうした、ナル。疲れたのか?」
 優しく訊ねるシカマルの顔にはナルトを心配する気持ちがありありと見て取れて。
ナルトはそれが嬉しくて彼の温もりを心地良さそうに堪能した。
「…ん、疲れた……最近、ずっと視線を感じるんだ。気が休まらなくて…」
「ああ、あれか。…大丈夫か?」
 シカマルは背中を撫でながらナルトを気遣う。
大丈夫、と言いながら見上げてくるナルトの様子に思わず眉を顰めた。
 ナルトの顔は疲労が色濃く残り、チャクラは何故か不安定。
これで心配するなと言うのが無理な話だ。
 ヒナタの時も同じように疲れて抱きついて来たことがあったが、今回はあの時よりも酷い。
 シカマルも、視線については気付いていた。
 ナルトの傍にいる時、ナルトに向けられる視線を時折感じていた。
その視線は里人が見せるような憎悪や、憎しみといったものとはまったく違うもので、珍しいと思っていた。
 ナルトにとって害になりそうなものではなかったから今まで放置していたのだが、ナルトをこんなに疲れさせてしまうのなら、対処すればよかったと後悔した。
「……ずいぶん疲れてるな。今日は任務休めよ」
「…でも…」
「俺がやっておく。逆に俺が休みたい時には頼むから」
 大人しく休んでくれ、と懇願する瞳にナルトはしぶしぶ頷いた。
「で、うちはイタチとは面識があったのか?」
 シカマルはナルトが了承したことに安心し、原因について確認する。
 視線の主はうちはイタチ。
護衛対象であるうちはサスケの兄でうちは一族の次期当主である。
 直接面識がなさそうな相手なのだが、シカマルとてナルトと常に一緒にいるわけではないため、ナルトに心当たりがないか確認したのだ。
「ううん…まったくない……だから不思議で」
「そうか。まあ、それなら可能性としてはヒナタのように当主から話を聞いて気になっているってあたりか」
「そうだね…本人に負の感情はないけど、すごくもの問いたげで、正直鬱陶しい……」
 嘆息して愚痴を漏らすナルトにシカマルは軽い驚きを見せる。
人に対して、悪意を滅多に表に出さないナルトがここまではっきりとと拒絶を表していることに驚いたのだ。
「珍しいな、ナルがそこまで言うなんて」
「……うん」
 シカマルにそう言われて頷いたものの、それ以上は口を開かずナルトはただ目を閉じてシカマルの胸に顔を埋めた。
「重症だな…」
 シカマルはナルトの様子に小さく呟く。
 これは早急に何か手を打たねばならない。
これ以上続くとナルトがもたなくなるのは目に見えてわかるからだ。
―――それに気になることもあったしな……
 この際だから一気に疑問を解消するのもいいだろうと考えたシカマルは、腕の中で甘え続けるナルトに優しい声で囁いた。
「ナル、この件、全面的に俺に預けてくれるか?」
「…シカ?」
 シカマルの申し出にきょとんとした表情を浮かべたナルトだったが、何も聞かずにこくんと頷く。
それにほっとしたシカマルは、ナルトの額に口付けを送りながら礼を述べた。
「ナル、これから俺がやることに驚くかもしれねーが、何があってもおまえの悪いようにはしないから、気にせず普段のお前でいてくれ。…俺を信じてくれるか?」
「うん、シカだけを信じてる」
 即答で帰ってきた肯定はシカマルを喜ばせ、微笑を浮かべるシカマルのかっこよさにナルトは疲れを忘れたように明るい笑みを浮かべた。
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