本編1
□木ノ葉の知神
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「どういうことですか」
深夜の火影執務室にて、蒼闇は三代目に対し険しい表情で詰め寄っていた。
背後には蒼光が立っていて、たじたじになっている三代目を助けることなく苦笑して傍観している。
今の蒼闇に口を挟んでとばっちりを受けたくないのと、蒼闇の苛立つ気持ちが解らなくはないのとで判断した結果が傍観だった。
どうやらそれは正しかったみたいだ、と内心呟きながら蒼光は事の成り行きを見守っていた。
「三代目、あれから三か月経つというのに何故体制が整っていないのです。しかも私に暗号解析部隊、蒼光に諜報部隊の長を務めろと仰る」
大きな声でもなく怒鳴っているわけでもない、淡々とした口調。それが却って蒼闇の怒りを感じさせるのは何故なのか。
「すまんのう。おぬしの言い分は最もじゃ。返す言葉もないわい」
素直に非を認める三代目に蒼闇も溜飲が下がったのか、穏やかな感情が少しだけ表に姿を現す。
それを見た三代目も強張りを解くかのように小さく息を吐いた。
「……三代目はこの状態が続くのが良いことではないとお判りのはず。なのに現状を回避できなかったというのは特別な理由でも?」
蒼闇の問いかけに三代目はうむ……、と言って黙り込んだ。
うちは一族の虐殺の一件より三か月。
里は未だ混乱の最中にあった。
同時期にうずまきナルトの抹殺計画が持ち上がっていたことが判明し、計画に加担していた者すべてが失脚したのだ。
加担していたのはうちはの分家と木ノ葉の上層部。
暗部と医療部隊を除くすべての部隊の長、補佐が名を連ねており、ほぼ全部隊のトップが入れ替わるという異例の事態になった。
この事態の立役者は蒼光と蒼闇であった。
蒼光―――ナルトのために九尾事件の原因を作った者を暴き、狙いを知り、相応の報復を行う。
蒼闇が裏で調査を始めたのはそれが目的だった。
だが調査をしていくうちにうちは一族の本家と分家の確執とそれに絡む上層部の権力争いが原因だと判明。さらには九尾の力を恐れて抹殺計画を立てていることが発覚し、蒼闇と三代目は上層部を一掃することを決意した。
残念ながらうちはの分家の反逆を止めることが出来ず、うちは本家は当主の嫡子イタチと弟のサスケ以外は全滅。うちはの分家はイタチの手によって始末され、事実上うちは一族は滅亡した。
生き残ったイタチもうちはの分家と上層部に外部から接触して唆した者の存在が発覚し、正体を探るために潜入捜査に出て木ノ葉にはいない。
しかも表向きは一族を惨殺し、里抜けした反逆者の汚名を着ているため、木ノ葉にいるうちはの生き残りはサスケのみとされている。
うちはについては後手に回ってしまい最悪の事態になったが、上層部についてはイタチがうちはの分家と上層部とのうずまきナルト抹殺計画の契約書を手に入れており、それを証拠として上層部に先んじることが出来た。
一番最悪のシナリオだけは阻止することに成功したのだ。
しかし、そこで安心しているわけにはいかなかった。
人が動き体制が大きく変わる時、必ず混乱が生じる。そこを他里の忍に襲われればひとたまりもない。
だからこそ少しでも混乱を抑え、速やかに体制を整えられるように準備をしておく必要があった。
もちろん蒼闇は準備の重要性を承知していた。そのため各部隊の有望な人材に目を付け、それぞれの部隊のトップに相応しい者をリストアップし、三代目に託していたのだ。
それなのに三か月が経過してもトップが揃わず、体制が崩れたまま。
さらには暗号解析部隊と諜報部隊の長になる者がいないため、蒼闇と蒼光に引き受けてほしいと告げられ。
蒼闇が怒りを表すのも無理もないことだった。