黒髪の少女。

□いつかの愛
2ページ/11ページ

それはある日のこと。

僕は彼女の部屋へ行った。

『×××!居るかい?』

『…』

彼女の返事は無かった。

『×××!開けるよ?』

僕は扉を開けた、もうすぐ日が落ちる頃だというのに、彼女は窓を開け放ち陰鬱な表情で外を見ていた。

『×××?』

『何よ、誰が入っていいと言ったの?』

彼女は冷たい口調で言う。

『出て行きなさい。
今日は都合が悪いわ。』

彼女はまるでいつもの彼女じゃないみたいに、つんけんとした雰囲気だ。

『早く。』

彼女はそう言い、窓を勢いよく閉めた。

『早く!!』

そう言ったけど、僕はそこから動く事ができなかった。

『っ…隠れなさい!!』

彼女は僕を衣装箪笥に押し込める。

『絶対動かないでよ。』

閉める。真っ暗だ。

『待ってよっ×××!!』

『五月蝿い』

彼女は衣装箪笥を蹴った。

コンコン

外で、部屋をノックする音が聞こえた。
僕は彼女の言いつけ通り、静かにしていた。

『どうぞ』

先ほどとは一変、彼女は落ち着いた様子で返事をした。

『やあ、×××。』

『こんばんわ、旦那様。』

それは、僕のじい様だった。

『×××、うちの孫が来たね。』

どきりとした、見つかる。

『ええ、旦那様のお孫さまは、随分おしゃべりですのね。
でも今日は旦那様との予定がありましたから、すぐ帰っていただきました。』

『そうか、あいつは私の息子に似たな。
君とは正反対の、真っ白だ。』

じい様は、何事も無かったかのように話し出す。

『君は、実に美しいよ。』

じい様が、僕の×××に触れる光景が浮かんだ。

沈黙。

何の音もしなくなった。
誰も声も、彼女の声も。

自分の呼吸が、やけに大きく感じた。

『×××…君の罪を清算しよう。』

叫びだしそうだった、誰かに触られたくなかった。
彼女の黒い髪に。
その漆黒の瞳に僕以外の誰かが映るなんて、許せない。

『――――――っ』
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ