黒髪の少女。
□いつかの愛
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それはある日のこと。
僕は彼女の部屋へ行った。
『×××!居るかい?』
『…』
彼女の返事は無かった。
『×××!開けるよ?』
僕は扉を開けた、もうすぐ日が落ちる頃だというのに、彼女は窓を開け放ち陰鬱な表情で外を見ていた。
『×××?』
『何よ、誰が入っていいと言ったの?』
彼女は冷たい口調で言う。
『出て行きなさい。
今日は都合が悪いわ。』
彼女はまるでいつもの彼女じゃないみたいに、つんけんとした雰囲気だ。
『早く。』
彼女はそう言い、窓を勢いよく閉めた。
『早く!!』
そう言ったけど、僕はそこから動く事ができなかった。
『っ…隠れなさい!!』
彼女は僕を衣装箪笥に押し込める。
『絶対動かないでよ。』
閉める。真っ暗だ。
『待ってよっ×××!!』
『五月蝿い』
彼女は衣装箪笥を蹴った。
コンコン
外で、部屋をノックする音が聞こえた。
僕は彼女の言いつけ通り、静かにしていた。
『どうぞ』
先ほどとは一変、彼女は落ち着いた様子で返事をした。
『やあ、×××。』
『こんばんわ、旦那様。』
それは、僕のじい様だった。
『×××、うちの孫が来たね。』
どきりとした、見つかる。
『ええ、旦那様のお孫さまは、随分おしゃべりですのね。
でも今日は旦那様との予定がありましたから、すぐ帰っていただきました。』
『そうか、あいつは私の息子に似たな。
君とは正反対の、真っ白だ。』
じい様は、何事も無かったかのように話し出す。
『君は、実に美しいよ。』
じい様が、僕の×××に触れる光景が浮かんだ。
沈黙。
何の音もしなくなった。
誰も声も、彼女の声も。
自分の呼吸が、やけに大きく感じた。
『×××…君の罪を清算しよう。』
叫びだしそうだった、誰かに触られたくなかった。
彼女の黒い髪に。
その漆黒の瞳に僕以外の誰かが映るなんて、許せない。
『――――――っ』