小説2

□白昼夢
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『白昼夢』





不思議な夢で目が覚めた。

佐々木は少しだけまばたきをし、
自身の身体が正常に動くまで静止していた。

「……5時、少し過ぎたあたりか」

少々早い起床だが二度寝の習慣を持ち合わせない佐々木は
すらりと起き上がった。
起き上がればその冷静な思考は正確に動き出す。
簡単な身支度をし、鏡に映る面白みの無い顔を確認する。
仕事上の都合で自宅には帰っていない。
ホテルの一室。
ストッカーからミネラルウォーターを出して飲みながら
届けられたばかりの各種の新聞に目を通し、ニュースを見、
江戸に起きた事柄を把握し、
惑星間の大きな紛争、経済の動きを脳に転写する。

「……ふむ」

特に何も無い。
佐々木の脳裏にふと先ほどの夢のなごりが紛れ込む。

甘い声だった。
視覚、聴覚、嗅覚、
それらが同時に存在する類の夢をよく見る佐々木にとって夢の声を甘いと認識するのは容易い。
だが不可解だった。
甘い匂い。
触覚が無かったのが残念に思われる。

夢だから仕方が無いのだが、
真っ白な部屋の中で、となりで静かに息をしているはずの相手が暫くすると消え、
次には何故かわからないが橋の上にいた。
目前の相手はただでさえ薄い身体にたおやかな、
おそらく正絹の、夜着のようなものを纏っただけの姿で立ちすくんでいる。
白い肌をむき出しにして。
佐々木は思わず着ていた上着を脱いで相手の肩にかけた。
よくよく見れば裸足だった。
まるでどこかから逃げてきたようないでたち。
先ほどの寝室から逃げてきたのだろうか、
と自虐に笑いそうになった。


相手は、
黒い髪と白い着物の美しい男は、

土方は。

佐々木の上着を白い両の手で大事そうに羽織ると、
桜色の艶やかな唇を控えめに笑みの形にした。

夢の中では従順なのだな、
と、
とっくに夢と理解していた佐々木は夢の中で思った。

土方がこのような態度をとるわけが無い、
という以前に。

この夢を見るのは初めてではない。

いつもそうだ。
夢に土方が出るときはきまって、無防備に薄い身体をさらしてぼんやりとたたずんでいる。
話しかければこたえる。
控えめな声、しかし何を言ったかはわからない。
おそらく意味のある言葉など言ってはいないのだ。
何せ夢なのだから。

土方が自分に何か意味のある言葉を言うとは思えない。

佐々木は朝食を取るために着替えた。

夢の名残は僅かにその脳に引っかかったままだ。
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