小説2
□rosso cardinale
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『Buon appetito』
神威は欠伸をしてから同業者の土方の向かいに座した。
丁度その後、浮浪者の子どもと思しき汚い身なりの生き物が、
不釣合いな高級リストランテのテラスにおずおずと入ってくるのが見えて、
何となく目で追えばやはり呼んだのは土方だった。
通りをちょろちょろしている子どもの中でもっとも利発そうなのを呼んだのは神威にもすぐ分かった。
土方はその子どもに何か言伝をして、コインをその手に握らせた。
子どもの腹がぐうううっと間の抜けた音を立てたのは次の瞬間。
子どもが真っ赤になると土方は思わず、といった感じで笑った。
叱責されると思ったのか、びくりと縮こまった子どもに土方は笑って、
もう一枚コインを渡してやって、言う。
「昼は腹いっぱい食うんだな」
子どもはその微笑に一瞬固まって、
それからぴょこんと頭を下げてテラスをでて、走り出した。
神威は土方を見て言う。
「ねェ俺、お腹すいた」
土方は先ほどの微笑をすっかり仕舞い込んでボーイを片手で呼び、
慇懃に彼の気に入りの料理をサーブするよう言いつけただけだった。
「笑ってくれないの」
神威が言うと土方は氷の美貌を少しも動かすことなく、
「召し上がれ」
冷たくそう言っただけだった。