小説2

□天使のまどろみ
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「可愛いなぁ……」

ほうっと溜め息をついて原田は性的な意味ではけしてない、
しかし確かな熱のこもった視線を送った。
目の前の天使は原田の知るあらゆる子どもの中で群を抜いて愛らしく、
聡明で華奢で壊れ物のように儚かった。
しかし小さな体と大きな目で、
時折こちらが息を呑むような表情をすることがある。
静かに、とても静かに、周囲を見ている。
視ている、のだ。
「普通はさ、こんなに可愛い子が将来は十人並みになったりするんだよな。
それが未来はあの副長だもんなぁ…マジで副長は奇跡みてェな人だよな……」
遠慮がちに手招きすると嬉しそうにこひじちゃんは瞬きをする。
壊れそうな身体を案じて、抱っこはあまりしていない。
「俺もさ、これでも昔は結構美少年だったんだぜ。それがいまじゃこの強面よ。土方さんは何から何まで極上だよなぁ…
俺らとはスケールが違うっつーか」
てまてまと音を立てて近づいてきたこひじちゃんをそおっと、そおっと抱き寄せると、
「きゃー」
嬉しそうにはしゃがれて照れくさい。
こひじちゃんは強面の原田が嫌いではないようで、
ぺちぺちと頬やつるつるの頭を触ってご機嫌だ。
「こひじちゃん、痛かったら言ってな」
「だいじょぶだよ?」
天使は不思議そうな顔をしている。
分かっている、
自分の子どもの頃だってそうだったように、子どもは案外打たれ強い。
その辺に転がしたって生き残るくらいしぶといのが混沌の世の本来の子どもの強さなのだ。

だが、この、世が世なら将軍の小姓として召しだされるような生粋の美少年を前に、
凡百の子どもと等しい扱いが出来ないだけで。

そして何より。
「副長の幼少期っていうのがなぁ……」
恐れ多くて、無体など出来るはずも無いのだ。
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