小説2

□天使が屯所にやってきた
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その日、山崎退の目の前で天国の門が開いた。

寝起きの副長様が魅惑のおみ足をさらしながら寝惚けているときも、
お行儀悪く胸元をはだけさせたときも、
指についたマヨを何気なく舐めているときも、
隊士連中ならば昇天しそうな光景ですら、
身に染み付いた狗の性質でまず隠そうと慌てだす悲しさを持っている山崎にとって、
よっぽどのことが無ければここまでの恍惚は訪れないだろう。

副長室の中、浮世の天国を見ている山崎の前で、
ぺたりと床に座り込んだ天使は、
恥ずかしそうにその小さな体を大きな着流しで隠した。
土方の為に生きているに等しい監察山崎退は、
目の前の存在が土方十四郎であるということを当然の事象として認識していたのだが、
別の次元で驚愕しないではいられなかった。
「あの……えー……と」
どうしようどうしようこれはとんでもないことになったぞっていうかとんでもないっていうか、
副長がとんでもなく天使なんだけど!!
いや、土方さんはいつも愛とエロスの女神みたいなもんだけど小悪魔な所もあっていやそういうことは、あれだ、
夢にまで見た幼少期の副長のお姿が…こんなにも愛らしくて良いのだろうか、良いのでしょう、
良いんですよ!!誰だか知らないけどありがとう、っていうか多分犯人分かってるけど!!身内の犯行だけど!!
わなわなと震える山崎の前で天使は小さな赤い唇をそっと開いた。
「ごめんなさい……とうしろ、いま、ふくきてないの…」
むしろごめんなさいは俺です。天使の半裸を見た罪は火炙りですか。
「ふく、どっかいっちゃった………」
天使はそういえば裸だったな。生まれたままの姿っていうか。
いやいや、違う、縮んだんですよね。縮んじゃって着流しが大きくなっちゃったんですよ。
「…それでね、ここ、どこかわかんないの……」
ふぇ、と泣き出しそうになりながらも必死で涙を我慢しているのだろう、大きな澄んだ目がうるうるしている。
きゅっと着流しの端を掴んで、この世に山崎しか頼れるものがいないの…という顔をしているなんて、なんて…!
この世で、俺しか、頼れるものがいない。
山崎の頭の中の天国の門が大きく開いた。
ファンファーレが鳴り響き花が咲き乱れるそこで、
開いた門から降りてきた天使は下界の様子に困ったように愛らしい目をきょろきょろさせて。

「おにいちゃん………とうしろう…
…ここにいていいの?」

天国への片道切符を得る寸前の山崎はとりあえず天使のためにお洋服を探すことにした。
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