小説

□いろもの
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「ねこのみみ」


「あー天人になっちまった」
起き抜けに土方十四郎はそう言って己の姿を鏡で確認した。

「おい、ザキ」
「はいよ…ってえええェ!!!」
「うるっせーな。耳元で叫ぶな」
とりあえず一発殴られた。
(猫パンチだ…)
「ふ、ふくちょ、それ、みみ、ねこみみ…」
ちょっと鼻が痛い。
いや、もう鼻血が出そうだ…
「おい殴られたぐれェで鼻血出すな」
土方さんはちょっと心配そうに俺を覗き込んでくる。
「あ、いや、違います…あの、
耳ぴこぴこさせないで…」
(…可愛いから)
「慣れてねェんだ制御できっか」
鏡を見て「面白ェ」
とぴこぴこ動く耳で遊んでいる。
どうしよう。この人。
「どーせならこれで潜入捜査
とかどーだ?手配しろ」
「えぇ!そんな…」
問題はシッポだよなー服がなぁ、とかのんびり言いながら、
しっぽが持ち上がるとまくれ上がる夜着の裾に眩暈。
もう失神しそうだ。
「なんつー頭してんでィ」
悪魔の申し子沖田隊長が現れ、
副長に見惚れていた俺はさり気なーく沈められかける。
ホント怖い人だ。
「んだ、お前の仕業じゃねェのか」
「濡れ衣はよしてくだせェ。アンタにこんなことしそうなのは一人でしょ」


ドタドタと足音がして
「ひっじかたくぅん!!!」
屯所の警備を相変わらずものともしない万事屋の旦那が現れた。
「うわ、可愛い!!!」
旦那は耳に触れてうっとりしている。
「お前か、妙なことしやがって」
呆れた様に土方さんは言うと
「何時治るんだ」
当然のように旦那を犯人と断定した。
「今日一日経てば。知り合いからもらってさ。この前使ってみたら生えてきたからおすそ分け」
「いらねぇよ。しっかしお前も耳生やしたのかよ。そういう面白いときは呼べよな」
「いや、毒見みたいなもんだから。土方君に使って何かあったら困るからと思ってさ」
「んだ、最初っから俺に使う腹づもりだったのかよ」
呆れたようにそう言うと
土方さんはちょっと笑った。
「今日は猫の日らしいな」
「よく知ってるね」
「近藤さんが言ってた。お妙さんの店、今日は猫耳の日らしいぜ」
「あー、拝む前にぼっこぼこにされるんだろうな…偽の猫耳に」
旦那はちょっと引きつった笑いをした。
「まぁ、俺はいいモン見れて満足だけど」
と言いつつちょっと残念そうなのは土方さんが全然動揺していないからだと思う。
沖田隊長もつまらなそうだ。
俺としてはこんな土方さんが見られるだけで僥倖だけど。

「おい、どうせなら飯食ってけ」
土方さんは旦那に告げると着替える為に私室に向かった。
いつもの癖で着替えを手伝う為に着いていこうとして
「…俺が行くから」
旦那に物凄い力で肩を掴まれた。
「…ハイ」
物凄く怖い顔だった。



「…沖田隊長」
「なんでィ」
「ああいうの、何て言うんでしたっけ」
「そりゃ、お前…」

バカップル、だろィ。

忌々しげに隊長は言い捨てた。


――――――――
※にゃんにゃんにゃんの日(二月二十二日)にちなんで書いたものです。
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