お遊び

□Hush-a-bye, baby, on the tree top.
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ギィィィ…と重厚な扉が開かれた。
黄金が燻った様な独特の色合いの髪をした皇帝は
その髪を惜しげもなくかき乱した。
「土方は何処に行った?!」
呼び止められて山崎が返す。
「雑用させてますけど…ってブホォォ!!」
思い切り蹴り上げられて悶絶するが皇帝は怒鳴る。
「ふざけるな!!!アイツに命じたのは俺の身の回りの雑務であって、本物の雑用をさせてどうする!!!」
恐れをなした部下が声をかけた。
「ひ、土方さんなら、お庭にいらっしゃいました…」
翻したガウンの裾の赤さに恐怖する部下を置き去りに皇帝は部屋を出て行く。



四方を硝子で囲まれ、天井の飾り硝子からは植物の成長に相応しい光が注ぐ。
頭上から日の光が注ぐため、城で唯一あたたかみのある美しさを保つ空間。
しかし総ては強化ガラスで、防弾処理が施されているいわば透明な檻。
水をやりながら、土方は庭師に微笑む。

ほぼ同時に、ガラス張りの壁の向こうで目的の相手を見つけた皇帝が声を荒げた。
「何をしている!!」
光の注す庭で振り返った土方は、声の主にいつも通り穏やかな声で返した。
「花に水を…皇帝?」
返事が待てなかったのか、素晴しい身体能力を発揮してガラス扉を開け放ち、
皇帝が庭に足を踏み入れた。
庭師が怯えたが見向きもしない。
「そんなものその辺のやつにやらせろ、お前は俺のそばにいるのが仕事だと何度言ったらわかる…!!」
「どこにもいきませんよ」
うっそりと笑ってそれだけ言うと、土方は水差しを庭師に返し、退出を促すように軽く目配せしてやる。
足元の草を踏み散らして、皇帝が土方を抱き寄せた。
「…お前の言葉など信じられるか」
ぐっと圧迫するように抱きしめられて困惑した土方は目を軽く閉じた。
目の前の男の激情が落ち着くのを待っているかのように。
「まだお休みになる時間でしょう。どうしたんですか、そんなに慌てて。悪い夢でも見ましたか」
「……いま、この世にこれ以上の悪夢があるか」
皇帝がそう零すと、無人の庭の空気が揺れた。
光を弾く硝子を見つめた土方はそのまばゆさに一瞬だけ瞬きをした。
「お前が俺のそばにいないなら、これ以上の悪夢は無い」



寝室の飾り気の無さとは真逆に、寝具は豪奢。
スレッドカウント800のシーツは、かつて、気に入りのホテルの特別室で供された最高のもの。
滑らかで、柔らかで肌に馴染む。
深い眠りを得られるように、土方が特別に発注をかけた。
「まだ遠征から戻られたばかりでしょう、お休みを」
傍の椅子を引き腰を下ろす素振りを見せれば、大人しく皇帝はベッドに腰を下ろす。
「わかった。お前の言うとおり寝るから傍にいろ」
「はい」
微笑む土方に繰り返す。
「いいか、寝付いてもここにいろ。寝てもいいが出て行ったら城の者を殺すぞ」
「……はい」
横たわった身体に優しくシーツをかけてやると、皇帝が手を捕らえた。
「唄え」
「歌は苦手です」
「かまわん。お前の下手な唄が聞きたい」
ふっと土方は笑ったが、皇帝は酷く真剣な表情だ。
「…誰にも聴かせないでくださいよ」
「当たり前だ」

ゆるやかなねむりが訪れるよう、低く唄を唄った。
悪夢が来ないようにではなく、
悪夢の中でも眠れるように。

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