小説2
□天使のまどろみ
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こひじちゃんはとびきり優しい子だった。
幼児には泣かれ、実は20代だというのに当然のようにオジサン呼ばわりされる超強面の原田を
「はらだのおにいちゃん」
と言ってくれる時点で、その聡明さと思いやりは明白だが。
就寝前のひと時をストレッチで過ごしていた原田は思わず目を見開く。
「こ、こひじちゃん………」
動揺する原田に枕を片手に頬をピンク色にしたこひじちゃんが
ちょこちょこと歩いてくる。
精巧なお人形のような歩幅。
「いっしょ、いい?」
しかしお人形は愛らしくはにかむ。
一緒に寝ても良いかと、この天使は訊いているのだと理解するまでにやや間があった。
白い綺麗な寝巻きを纏ったこひじちゃんは本物の天使のような愛らしさに満ち、
不用意に触れば壊れてしまいそうに儚く感じられた。
原田はただカクカクと頷いた。
そっと、こひじちゃんが原田の隣に座る。
やわらかくていい匂いのする小さな小さな子。
見あげる目は澄きとおって透明。
「さ、さみ」
寂しいのか、と問おうとして思い直す。
昼間のあれは。
理解すれば胸がいっぱいになった。
この綺麗な子の中にはどれだけ優しいものが詰まっているんだろう。
原田はすっと、襟を正し。
その場に静かに座り直す。
そして、幼児にするには敬虔過ぎる態度で口を開いた。
「ぜひとも、ご一緒させてください」
敬愛する土方十四郎に告げる言葉は、
常に一途にひとつなのだ。