小説2

□天使のまどろみ
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巡回帰りの原田がこひじちゃんを発見したのは屯所の門をくぐって少し過ぎた辺りだった。
きょろきょろとしていたこひじは、原田を見つけてほっとしたように、
それからすぐにしゅんとなった。
外に出てはいけない、という言いつけを守れなかったことを聡明なこの子は悔いているのだろう。
「寂しくて出てきちまったのか?ごめんな」
そういえば、今日はこひじちゃんを隠さなければならない相手が相次いで来訪していて、
朝から部屋に軟禁状態だったはずだ。
そのうえ山崎は数日前から泣く泣く仕事に出ていた。
駆け寄ると原田はそおっとこひじの手を握った。
それから、思い直してきゅっと握ってやると安心したのかやっとこひじの頬の緊張が解けた。
「戻らないとみんな大騒ぎするだろうな」
「とうしろう、いけない?」
しゅんとして、猫の耳でもついていたらぺたりとなりそうにこひじは俯く。
「いや……一人にしたら寂しくなるに決まってる。寂しくなったら誰だって誰かを求めて歩いてくもんだからな。
近藤さんも、夜にお布団に行っても怒らないだろ」
こひじちゃんがこくんと頷く。
よっ、と抱き上げるとこひじちゃんはきゅっとしがみついた。
「俺もよ、こんなオッサンなのに怖いときがあるんだ」
目線をあわせ、覗き込むようにした原田に、
「はらだのおにいちゃんも、こわいことあるの?」
こひじはぱちぱちと長い睫を動かした。

「あぁ…怖いことばかりさ」
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