小説2

□天使が屯所にやってきた
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その日、屯所は絶叫の後気絶、という段取りで倒れるものが続出した。
すっげぇ可愛い!!!だれだれ?どこの子?え、
副長?
え………ぱたり、という感じで一通り隊士達が屍と化した後で山崎はとりあえず沖田の元へ出向いた。
生命力だけは有り余っているので、恋心を燃料に復活した隊士達は怖がらせないように精一杯微笑みながら
小さくなった土方を熱心に見つめている。
大人しく座って大人たちを不思議そうに眺めている「こひじちゃん(山崎命名)」は
大人たちの可愛いものへの興味津々の態度にやや困ったように睫をぱちぱちさせてきゅっと山崎の服の裾を掴んでいる。
「沖田隊長、この間の天人の薬」
「土方さんに飲ませやした」
けろりとした顔で言う、外見は王子様、中身はサディスティック星の魔王は珍しげに土方を見ている。
なぁに?というようにこひじが首をかしげた。
「しっかし…ちっせぇな」
沖田が何か言う前に、騒ぎを聞きつけた近藤がこひじの頭を撫でながら言う。
「高価な若返りの薬だったんだろ。まぁでも失敗か…」
「美容目的には販売できませんね。記憶が無くなるんじゃその間若返ったってどうしようもない」
「子どもがえりするって感じだよな」
よしよし、と撫でればますます仔猫のようにこひじはぷるぷるする。
可愛いなぁ、と思わず甘い顔になってしまう近藤はイマイチことの大きさを分かっていない。
しばらく土方がこのままということは、己が鬼のように働かされるということに他ならないのだ。
「凶悪なテロリストを一時的に大人しくさせる用に、ってことで松平長官からいただいたんですけど、
いつ戻るかわからないんじゃ実用的じゃないですね」
「とっつあんには俺から上手く言っておくが……トシは大丈夫なのか」
「俺が立派に育ててみせます」
「いや、元に戻るんだろ?そのうち…」

こひじが大人しく山崎の傍に座って入れてもらったお茶を飲んでいると、
隊士達が耐えられず集まってくる。
「わぁ、超可愛いな…」
「お人形みたいだねぇ」
「マジで副長なわけ?ほとんど女の子みたいじゃん。かわい…」
ひゅん、と顔の真横に垂直に突き立てられた短刀に凍りついた隊士は一瞬で青ざめた。
「そこ!!汚い手で触らない!!!」
「や、山崎……ちょっと落ち着けって」
「落ち着けません!!幼児にはわずかな菌も命取りなんです!!
これからこひじちゃんに触る人間は徹底的に除菌してからにしてください!!!もちろん局長も!!!」
退出してしまった沖田はともかく、こひじを可愛がりたい隊士達の激論の末、
最終的には後輩達を半ば脅すようにして山崎は土方の専属世話係となった。
というか沖田がいないのならば目がヤバイ状態の山崎に対して誰も何も言えなかったのだ。

「ささ、副長。お着替えしましょうね」
「あい!」
ぴっと手を挙げて良い子のお返事。
山崎退、ひじかたとうしろう、ななさい、を完璧に育て上げるべく、
満面の笑みを浮かべた。
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