×土な話
□永久失恋
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「子ができたんだ」
そう近藤さんが言った。
相手は天敵のチャイナが姐御と呼ぶ人間で、近藤さんの粘り勝ち。
長い間の片想いに、その姐御が折れたらしい。
来月の頭に籍を入れてなんて、そんな折だったから喜びも大きく組全体に発表した。
口々に祝福の言葉を送り、近藤さんが照れて。
この日ばかりはテロなんか知るかと言わんばかりのムードが流れる。
「トシのおかげだ」
まさに、その通りで。
デートの準備やプレゼントのアドバイス。
一から九まで世話をやいたのは土方さん。
主役にありがとうと感謝の言葉を貰いながら、柔らかく笑った。
「おめでとう」
今日ここにきて、この人の明確な失恋が速まった。
「ご愁傷様でさぁ」
俺は嘲ったように言葉をかけてから、主役である近藤さんに祝いの言葉を述べた。
可哀相に。
そんな憐れみはあるが、内心喜びに狂う。
俺だけじゃない。
陰を落とした鈍い金の目を捕らえた双眼がもうひとつ。
慈愛なんかを貼付けた垂れた目に不釣り合いな歪んだ口元。
いつもラケットを振り回す腕が獲物の首を毟るように伸びた。
-副長、どうかしましたか?-
多分、こいつはこんな感じに話し掛けようとしたんだろうが。
「何やってんでさぁ。近藤さんに祝いも言ったし、見回り…」
「あぁ、今行く」
「じゃあ山崎。宴会は程々にねぃ」
この人を狙ってんのはお前だけじゃねぇと、鼻で笑って早足で出てく土方さんを追った。
「なぁ総悟」
「なんでぃ」
「まだ好きなんだ」
「へぇ」
「多分、一生好きのままだ」
「へぇ」
俺はあんたを一生好き。
そんなん言葉にできてたら…
「…健気だねぃ」
俺もあんたも。
幸せなんて元より描いていない。
だからダラダラと想い続ける。
あぁ、なんて報われない。
でもどうしようもなく
盲目な恋。