×土な話

□愛玩主人様
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「猫が欲しい」

俺のヤバい程愛する人はそう宣った。

これが違う奴、っというか、この人以外だったら心底馬鹿にして顔だけ笑って「飼えば?」と言うところだ。

自分で言うのもなんだけど、結構冷めた人間の俺がこの人と対峙する場合こうなる訳です。

「俺以外に何か飼う気ですか?」



<愛玩主人様>



付き合いだしたのは、俺が高三の時。二年前。
いや…もしかしたら俺がそう思ってるだけで、この人はそう思ってないのかもしれないけど。

二年前、俺、山崎退は人生で初めて告白を試みた。
何故そこまで常識外なんだと問いたくなる…相手は教育実習でやってきた男。土方十四郎。

土方先生の担当は一年生。

授業の仕方や人となりすら人づてで知った、
声すら知らないまま告白した俺です。
馬鹿だな。確実に。

だって、俺が最初に惚れたのは先生の書く言葉だったから。

毎週水曜日に配られる校内新聞で見た教育実習生の自己紹介欄。

女子達の騒ぐ端正な顔写真と同じくらい、それ以上に俺は先生自筆の文面に心を惹かれた。

何の本だったか忘れたけど、先生の言葉は半分以上その文引用したもの。
一見真面目な、教育者の言葉だけど、言葉の意味は違う。
『餓鬼は嫌いだ』
確か、そんな内容の本。

一瞬目を剥くほどの強烈な文書を作る文字は繊細なように見えて、右上がりだったり左上がりだったり。

変な人だ。
そんな興味。

告白した時も、好きとかよりも興味が先立ってた。

「あんたが好きです」

土方十四郎という人物は、初対面同様な餓鬼。しかも、同じ男から告白されたらどうするのか。

そこで多分、拒絶だったり許容だったら俺の興味も失せたかもしれない。

職員室の前の、人通りが多い廊下。

興味は最高潮。
だけど俺はこの人をなめてたらしい。


「じゃあ、飼ってやる」


まさかそんな言葉を返す大人が居るなんて…
瞬間、金髪碧目のキューピッドが俺に矢を刺した。

死んでしまうかと思うほどに体がほてり、俺はぶっ倒れて保健室行き。
気がついたら先生はいなくなってた。
何故かって?そりゃぁ教師志望者にあるまじき発言をしたからです。
当然に問題有で実習は中止。

そう聞かされた時はもう、淡い恋心なんかですむ物じゃなくて、死に物狂いで捜しまわった。

いや、うん…捜しまわろうとして走り抜けた校門の横壁に先生は居たんだけど。

ヤンキーよろしく座り込んで煙草を吹かしながら。
俺はびっくりするほど悪い態度と、実習を台なしにした罪悪感で何を話したらいいかわかんなくて黙って先生を見た。


「名前、なんだ?」

「…山崎退」

「じゃあ退。これ俺の家鍵。あっちのマンションだから」

「はぁ」

「放任だから、腹が空いたら家帰って来いよ」



そんなこんなが俺とこの人の恋愛か愛着か、微妙な愛の話。


もぅ言葉を交わす事に魅せられて、俺はかれこれ飼い犬歴2年。



「あんたには俺だけで充分ですよ」


いまんとこ、死ぬまでは主人を放す気ありません。

(もちろん譲る気もね)

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