×土な話

□自己愛の果ては
1ページ/1ページ

自己愛の果ては




静かな部屋で、山崎がある町娘と夫婦になるんだと言った。
断れなかったと。

その声は沈んでたが、僅かに滲む期待があるのを知っていた。
こいつの演技は役者並で、普通の奴ならころりと騙される程の代物だ。
表情は全て完璧。
眉や口、目ですら「悲しい」と震えて語る。
ただ、指だけはいつものように力強く畳みを押していた。

だから俺は、あぁそうかと平気な風で言った。
俺も妻をもらうんだと。

実際そんな予定はなかったが、こいつが何て反応するか気になった。
多忙な俺に、好きだ惚れたと喚きちらした挙げ句コレだったから。
泣きそうな顔か、激昂か、何かしらの答えはあるんじゃないかと思ったんだ。
演技であったって。

だから、おめでとうございます、なんて言われると思ってなくて、
俺はマヌケにもあぁとだけ返事をした。
無言の空間が、今日だけとても重い。
俺達は、お互い譲り合いの精神を持ち合わせていない。
なんだかんだで似た者同士だから惹かれた、自己愛に近い感情。

そろそろ折れようと思ってたんだ。しょうがねぇから付き合ってやるよって。
横に居たいなら居れば良いってな。
あぁ俺だって好きだったんだ。
だけど、俺はお前が望むみたいに泣いてやれない。
それに、お前は俺が望むみたいに怨んではくれない。

だってしょうがねぇだろ?俺の自尊心って高いから。
お前が縋ってくれないとダメなんだ。有利に立てない関係は結びたくない。
あぁそれはお前も同じだな。
…もぅ少しで愛ってやつが手に入ったのに…

もぅ後には引けないから、ここで終わりだ。
だから、さようなら。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ