風船葛

□第零話
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着いた先は進入禁止区域にある零番隊隊舎だった。


『おかえり、奏』


無理した笑顔で迎える空。


『空…………ただいま』


ごめんと心の中で呟きながら返事を返す。


『明日が最後の出勤になる。その後は、流魂街の家に移るから、荷物まとめておいで』


『奏の荷物は?』


『僕のは大体は済んでるから、ここに空の荷物運んでくれるだけで大丈夫だよ』


はい、と手渡すのは流魂街に借りたという家の地図。


『わかった。ありがと』


隊舎を瞬歩で去る空。


『無理させてごめんね』


去った空に届かない謝罪をする。


ゆっくりするためにと置かれたソファに深く座り、背を凭れる。


『僕らも一緒に逝ければこんな思いはしなかったのかな』


酷いや……そうぼやきながら、腕を目元へ持ってゆき静かに涙を流す奏。


瞬歩で去った空の後には、涙が足跡を残していた。





二人が瀞霊廷を去る日はちょうど満月だった。


満月の明るさは、二人の心を表しているかのように、暗く灰色の雲に遮られた。


ぽつりぽつりと降りだしたのは、二人の心が流す涙の雨だった。


『ねぇ奏。あの日も雨だったよね』


『そうだね。あの日も満月が見れなかった』


傘も差さずに二人はとある丘へと来ていた。


丘には、墓石が置かれていた。


その前で、二人は腰を落とし、静かに手を合わせた。


雨はやむ気配を見せず、二人に降り注ぐ。


やがて奏が口を開く。


『総隊長に喧嘩売ってきたんだ』


『…………』


驚いて返事が出来ないのではなく、呆れて物も言えない空。


そんな空に気付いてはいるものの続ける奏。


『 " 我ら零番隊は零番隊のために " そう言ってきた』


『零番隊はもう、尸魂界には不必要なのかな』


『きっと必要になるから、それまでは待っていよう』


再び手を合わせると、二人の頬は雨ではない水が流れ落ちていった。






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