イルゲネス
□X
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「ニコラス。今晩、部屋を少し空けて欲しいんだ」
「……ジェイクィズ、か?」
ニコラスの問いに、フォンは小さく頷いた。
その時、ニコラスが浮かべた苦々しい表情の意味を、フォンは知らない。
ニコラスだけが、この先の結果を正しく予想していた事を、フォンは知らない──
「ニコラスの奴、綺麗に使ってるな。俺がいた時より、片付いてる」
W-09号室に入ってすぐ、ジェイクは部屋を見渡してそう言った。
その台詞が妙に白々しく聞こえるのは、多分気のせいじゃない。
「……それで、俺に話って何だ?」
「…………」
半ば無理矢理ジェイクを引きずってきたにも関わらず、フォンは口を開こうとはしない。
ジェイクもそれ以上急かす事はせず、自分の──今はニコラスが使うベッドに腰掛けた。
“ジェイクのいるW-09号室”
しっくりくるその光景に、フォンは瞳を細めた。
ほんの少し前まで当たり前だった景色が今は懐かしく──何物にも変えがたい大切なものだと、フォンは改めて確認する。
だから、フォンは覚悟を決めた。
たとえ、自分や目の前の男が抱く感情が罪なんだとしても構わない。
他人が決めた“罪”という概念なんかのために、ジェイクを失いたくない。
フォンは瞳を伏せ、小さく深呼吸し……真っ直ぐにジェイクを見据えた。
その瞳にはもう、迷いは無い。