イルゲネス
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テーブルに置かれた錠剤の束。
彼女は──アイネスはそれを見ると、微かに眉をひそめる。
「フォン。貴方最近、薬の服用量増えてるんじゃないかしら?」
前回帰ってきた時は、確かこの半分の量しか処方されていなかった筈。
この哀れな少年はまだ眠れぬ日々を過ごしているのかと思うと、アイネスの心は痛んだ。
軍学校に入学して数ヵ月。
フォンの表情・雰囲気は柔らかくなった。
中学・高校時代は、周りが年上ばかりだった事。そしてリッテンバー博士の養子だという境遇もあり、周囲から浮いていたフォン。
軍学校でも上手くやっていけるか不安だったが、彼は年相応の少年の顔を見せるようになった。
人並みに友人も出来、毎日が楽しいのだろう。
研究所に帰ってくる度、彼はたくさんの話をした。昔では考えられぬ程に。
そして、その話はすべてある青年に集約していた。
“ジェイクィズ・バーン”
他人と一線を引き、距離をとる事に慣れてしまったフォンの手を取ってくれた男。
アイネスは顔も知らない彼に、心から感謝していた。
フォンに“心”をくれた事を。
だから──
「今日はジェイクィズの話はしないのね。
喧嘩でもしたのかしら?」
「…………」
どうやら図星のようだ。
フォンは俯き気味に薬を手繰り寄せると、鞄にそれをしまう。
「フォン。何があったか、どちらが悪いか。なんて聞かないけれど、自分の足で歩み寄る事も必要よ」
失いたくないなら──
アイネスの言葉に、フォンはそっと拳を握り締めた。