イルゲネス
□U
1ページ/6ページ
フォンは廊下を歩いていた。
いや、歩いているというより、小走りに近い。
本当は全速力で駆けたいのだろうけど、彼に僅かに残った理性がそれを堪えさせた。
それでも、華奢な体躯から放たれる不機嫌なオーラに圧倒されて、周囲は道を譲るものだから、フォンの足は加速していた。
目的地。エルフェンバインの教室に辿り着いたフォンは、壊さんばかりの勢いで、扉を開けた。
中にいた数名のクラスメート達は、荒々しい音にギョッとしている。
そして……
「どういうつもりだ、ジェイク」
クルダップと世間話をしていたジェイクの胸ぐらを掴み上げた。
「おい、フォン、どうしたんだよ!?」
これにはさしものクルダップも驚いたらしく、ふたりの間に割って入ろうとする。
だが。
「ジャニスから聞いた」
「…………そうか」
ジェイクはフォンが苛立たしげな理由をわかっているらしく、表情が変わらない。
やんわりとフォンの腕をほどいて「場所を変えよう」と呟いた。
そんなジェイクを鋭く睨み付けるフォンだったが、周りの視線が全てこちらを見ている事に気が付くと、渋々頷く。
「ジェイク、来い」
「ああ」
逃走防止のためか、しっかりとジェイクの手を掴むと、フォンはスタスタと歩き出す。
そんなふたりの後ろ姿を、クラスメート達は、ただ呆然と見つめていた。
フォンとジェイクが向かったのは、普段人がほとんど近寄らない一室だった。
倉庫代わりの部屋は薄暗く、埃臭い。あまり長居をしたい場所ではない。
だが、フォンはそんな事、欠片も気にしていない。目に入らなかった……という方が正しいだろう。
それくらい、フォンは苛立っていた、怒っていた──そして、悲しんでいた。