イルゲネス

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「フォン。お前、あんまり俺の事、無条件に信じすぎるなよ──」
 困ったように笑って、ジェイクはそう言った。
 それは、明確な拒絶だった。





 ジェイクと距離を感じる。
 その事に気付いたのは関係者参観が終わってから、しばらく経ったある日の事だ。
 あの一件を機に、フォンはクラスメート達と親しくなっていった。
 ジェイクもそれを喜んでいると知っていたから、フォンは今までジェイクと共にいた時間をクラスメート達と過ごす事に割いていた。
 だから、気付かなかった。
 いや、それは単なる言い訳だろう。
 フォンは甘えていたのだ。
 何があっても、ジェイクは自分の側にいてくれる。
 そう心の底から信じて、少しも疑っていなかった。



「ジェイク……何かあったのか?」
「何がだ?」
 就寝寸前。寝巻きに着替えるジェイクが首を傾げる。
「……最近。あまりお前と話をしてない気がする」
 気がする……どころではない。
 確実にふたりの会話は減っていた。
「そりゃ、お前が他の皆と話をするようになったからだろ」
 ジェイクは苦笑しながら、友達が増えて良かったじゃないか。と言う。
「違う。そういうんじゃなくて…………こんなに近くにいるのに、何だか、お前が遠い──」
「…………」
 腕を伸ばしてジェイクに触れようとするフォン。
 ジェイクの顔から笑みが消えた。

 その表情に、フォンは自分の考えが間違っていなかった事を知る。
 どうして、今まで気付かなかったのだろう。
 いつも、あんなに近くにいたのに。たくさん、話をしていたのに。
「……ジェイク、俺は何かお前を不愉快にさせるような事をしたか?」
 ふいっとフォンから視線を外しながらも、ジェイクは首を横に振った。
「お前は何も悪くないさ」
「だったら──」
 フォンの世界を広がるのを邪魔しないために、自分から遠ざかった?
 違う。ジェイクはそんな奴じゃない。
 何か、ちゃんとした理由がある筈だ。
「俺に原因が無いんなら、いったい……」
 その時だった。
 ジェイクの腕が、フォンに伸びてくる。
 大きくて温かな掌が、手触りのいい黒髪を撫でた。
 久しぶりに感じるジェイクの体温に、フォンは瞳を細める。
 それが離れると、フォンは無意識の内に、もの足りないという表情でジェイクを見上げていた。
 そんなフォンを見つめながら、ジェイクは言った。

“自分を信じるな”と──


 
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