イルゲネス
□U
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この手を離したくないと思う自分は、なんて浅ましいのだろう──
復学してから、ジェイクは今まで以上にフォンの側にいるようになった。
その姿は、目を離せばフォンがいなくなるという危機感を抱いているようにも見えた。
眠る時だって、こうしてフォンを捕まえていようとする。
片時も離れたくないと言われているようで、フォンは少しだけ嬉しく……とても苦しかった。
ジェイクにそこまでさせる価値が、自分にあるとは到底思えなかったからだ。
背中越しにジェイクの心音が聞こえる。
規則正しい命の脈動。
フォンにとっては安眠剤だ。
眠っている間も、ジェイクはけしてフォンから離れようとはせず、隙間無くぴったりと体をくっつけている。
以前のフォンだったなら、こんな子供扱いを許しはしなかっただろう。だが、今はこの体温が愛しくてしょうがない。
離れた方がいい……ジェイクとは距離をとった方がいい。
そう思う理性とは正反対に、本能と体はジェイクを欲していた。
触れてはならないと知った途端、欲しくて欲しくてたまらない。
禁断の果実はどうしてこんなに魅惑的なのだろうか──
「…………ん…」
「起きたか……?」
背中で身動ぐ気配。
腰に回された腕に自分の手を重ねると、ジェイクはフォンの背中に額をすりつけてきた。
「寝惚けてるのか、ジェイク?」
「…………おき、てる」
その台詞が口だけなのは、今のフォンにもわかった。
ジェイクの口調は、寝起き特有の舌ったらずなものだ。
「お前……ちゃんと寝れたか……?」
フォンの肩が小さく揺れる。
「……ああ。大丈夫だ」
「そっか……」
背中に微かな吐息。ジェイクが微笑んだのだと悟って、フォンは唇を噛む。
寝起きがいい筈のジェイクが、妙に眠たげな理由に気付いたのだ。
「俺が眠るまで、起きてたのか?」
「寝れなかっただけだ」
ジェイクは何でもない事のようにそう言って、笑った。
けして押し付けはせず、必要以上にフォンの内に踏み込みもしない。
ただ、側にいてくれる。
何も聞かず、見返りも求めず、フォンを無償の愛で見守ってくれる。
その事がどれくらいフォンの救いになっているか、この男はきっと気付いていないだろう。