イルゲネス

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 眠れぬ日々が続いていた。



 復学し、普段通りの生活を送ろうとしても、脳に刻み込まれた己の罪と、真実が睡眠を妨げる。
“創造主”によって渡された薬を服用する気にはなれず、眠れぬ夜を幾度となく越していた。
 普通なら、精神にも肉体にも大きなダメージを受けるだろうが、特別に造られた体はそう簡単に壊れてはくれず、意識はいつまでも高揚としている。
 そんなフォンの、唯一の支えは──

「そっちに行ってもいいか、フォン?」
 背中を向けた隣のベッドからの優しい問いかけに、フォンは小さく「ああ……」と、答えた。
 近付く温かな体温のために、体をベッドの端に寄せると、腰を抱かれて無理矢理元の位置に戻される。
「ジェイク……」
「重たかったら言えよ」
「…………」
 腹に乗った腕が重くないと言えば嘘になるが、細やかな安眠をもたらしてくれるこの体温を離す気にはなれなかった。
 うなじに軽く唇を寄せ、おやすみ。と囁くジェイクの温もりを背中に感じながら、フォンは束の間の安息に身を任す。



 もう随分と、ジェイクとは肌を重ねていない。
 ジェイクはわかっているのだろう。自分がそれを拒絶している事を。
 触れられる事が怖かった。ジェイクが造り物の自分に触れる事で穢れるのではという恐ろしさがあった。
 自分は性処理用に造られた人造体達とは違い、人間以外の遺伝子も混じっている。
 今の所問題無いが、自分と交わる事で、ジェイクの体に何か悪影響が無いとは言い切れない。
 自分のせいでジェイクが……だなんて、そんな事、想像するだけで恐ろしかった。

「初めからこんなもの、無ければ良かったのに……」

 フォンは他人を愛する事を知っている。愛される事を知っている。
 そして、愛しい人と交われる体を持ち、その体は愛される悦びを知った。
 最初からそんな“体”も“心”も無ければ、こんな苦しい思いを知らずに済んだのに。
 フォンは自分の体を抱き締めるジェイクの逞しい腕を、そっと撫でた。


 
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