イルゲネス
□違う道に何を見る
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「……今までありがとう、ジェイク。
俺はもう、ひとりで歩いていけるから」
震えそうになる体を叱咤し、フォンは笑った。
これ以上、ジェイクを自分に縛り付けるわけにはいかない。
ずっと側にいてくれたからこそわかる。
ジェイクは“人”を愛しているのだ。
殺し合いも憎しみ合いも、ジェイクを傷付ける。
体の傷よりも、ずっとジェイクを深く苛むのだ。
そして、元首となったフォンの側にいれば、ジェイクはもっとたくさんの痛みを背負う事になる。
そんな事、耐えられない。
「以前言ってたな……自分の店を持つのが夢だって」
だったらその夢を叶えてくれ──
フォンはそう言って、笑った。笑って、ジェイクの背中を押した。
「今まで、本当にありがとう……」
どうかこれからは、幸せに生きてほしい。
たくさんの人に、笑顔に囲まれて、ジェイク自身笑っていてほしい。
その為なら、これくらいの寂しさ、我慢出来る。
フォンは最後に、別れの言葉を口にしようと、ゆっくり唇を開いた。
だが──
「フォン」
「…………え」
ふわりと、温かなものに全身を包まれる。
ジェイクに抱き締められているのだと悟った瞬間、孔雀眼が大きく見開かれた。
「たとえどこにいようと……どれだけ離れていようと、一生、お前を想い続けるよ」
「っ!」
そんな事を言わないでほしい。
折角の決意が揺らいでしまう。
笑って見送ろうと決めたのに。
フォンはジェイクの背に回した手に力を込めた。
どうかそんな言葉を言わないで──泣いてすがってしまいたくなるから。
泣いて、行かないでくれと言ってしまいそうになる。
フォンは唇を噛み締め、ジェイクの肩に顔を埋めた。
この手を離さなければ。ひとこと側にいてほしいと告げれば、きっとジェイクはここにいてくれる。
自分の夢すらなげうって、フォンの隣にいてくれるだろう。
それはとても甘美な夢だ。
だが、フォンにそんな事出来ない。
「ジェイク、ジェイク、ジェイク……」
フォンは言葉に出来ぬ思いの代わりに、ジェイクの体を力一杯抱き締めた。
今だけ。これで最後だから──
そう自分に言い訳して、ジェイクの優しさに甘える。
フォンは、自分の唇でジェイクの唇をふさいだ。