イルゲネス

ローデン大佐の心痛な日々
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 ローデン大佐の機嫌が悪い。
 部下の親衛隊隊員達は、その事実に戦々恐々としていた。

 事の起こりは数日前。
 フォーティンブラス閣下の元に、ある男が現れた事に起因する。
 男の名前はジェイクィズ・バーン。
 知る人ぞ知る、五年前の革命の立役者であり、フォーティンブラスの右腕と呼ばれた男。
 そして、親衛隊隊員達にとっては鬼門とも言える人物であった。





「何度言えばわかるのだっ! 貴様では話にならない! さっさと閣下を呼べ!」
「こっちも何度も言ってるだろ。これはフォンの……閣下のご意志だ」
 先程から続く押し問答。
 数歩下がって見ている隊員達の前で、ニコラスとバーン補佐官は無益な言い争いを続けていた。

 ジェイクィズが補佐官の任に就いてからしばらく経つが……ほぼ毎日、このふたりは何かしら言い争っていた。
 否。正確に言うなら、声を荒げているのは主に自分達の上司だけで、金髪の補佐官は大抵ポーカーフェイスを貫いている。
 一部の者達からは犬猿の仲と呼ばれるふたりであるが、見ていると嫌っているのはニコラスだけのようだ。
 それを何とも奇妙な心地で、部下達は見ていた。



 ニコラスを筆頭とした親衛隊は、目の前の補佐官(あの時はまだ一民間人だったが)を連行し、拷問紛いの尋問をした。
 普通なら、敵意を込めた視線を向けてくるなり、授かった地位で報復に出たりするだろうに、彼はそんな素振りを一切見せない。
 それどころか、ニコラスに対しては“昔からの友人”というスタンスを崩そうとはしなかった。
 その事がなお、ニコラスの怒りに油を注いでいるようなのだが……本人は気付いていないらしい。



「もういいっ! お前に掛け合った俺が馬鹿だった!」
「おい、ニコラス……」
 扉をぶち壊さんばかりの勢いで出ていく上司の後に続き、部下達も部屋を後にする。
 都合上、こちらも上官に当たるジェイクィズに敬礼すると、いいからさっさと行け。と、苦笑いで追い出された。
 同期であり、同志でもあったというのに、あまりに正反対すぎるニコラスとジェイクィズに、周囲の人間は翻弄されるばかりであった。


 
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