イルゲネス

不在の日
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「じゃあ、行ってくるな」
「……ああ」
 ある休日の早朝。いつもならまだ眠りこけている筈のジェイクが、今日に限ってきちんと身支度を済ませ、まだベッドの上で半分寝惚けているフォンに笑いかける。
 逆はあっても、ジェイクがフォンより早起きし、身支度まで完璧に済ませているなんて珍事、今まで一度も無かったというのに。
 他人が見たら、今日は雪どころか槍でも降るのではと思う所だろうが、何て事は無い。ジェイクは所用で実家に帰らなくてはならなくなっただけなのだ。

「多分、帰りは遅くなるだろうから、先に寝てていいぞ」
「わかってる。子供扱いするな」
 そう言いながらも、ごしごしと眼を擦る仕草は年よりも幼く見える。
 ジェイクは声に出して小さく笑いながら、フォンのベッドに歩み寄る。そして。
「いい子で留守番してろよ?」
 まるで幼児に向けるような台詞の後、腰を屈めて、フォンの泣ぼくろに軽くくちづけた。
「…………いいから、さっさと行ってこい」
 微かに赤くなった目元を隠すように、顔を伏せて早口に言えば、ジェイクはやはり笑いながら部屋を出ていった。
 フォンはぱたりとベッドに転がると、長い長いひとりきりの休みに、思いを馳せるのだった。


 
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