イルゲネス
□雨音色
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「すまない、ジェイク。上着を借りてしまって」
とある休日の午後。
ルームメイトと外出していたフォンであったが、その帰り道、雨に降られた。
学校まで後僅かという距離だったから、ふたりは雨宿りするよりも。と、全力で走った。
その際、ジェイクが自分の頭に被せてくれた上着。
雨水を吸って変色し、ぐっしょりと重くなったそれとは反比例して、あれだけ降られたにも関わらず、フォンはほとんど濡れていない。
それが申し訳なくて項垂れると、ジェイクはほんの少し湿り気を帯びた黒髪をくしゃくしゃとかき混ぜて、笑った。
「お前が濡れなくて良かったよ」
床にいくつも小さな水溜まりを作りながら、ジェイクはクローゼットからタオルを取り出す。
「フォン、先にシャワー使っていいぞ」
濡れた金糸のような髪を荒っぽく拭いながら、ジェイクは器用に片手で自分の濡れたシャツのボタンを外していく。
「いや、お前が先に使え」
ジェイクのお陰で、自分はさして濡れてない。そう告げると…。
「俺よりお前の方が体温低いだろ?」
こちらを振り向いたジェイクの濡れた裸の上半身に、フォンの顔は思わず熱くなった。
「フォン?」
「さ、先にシャワーを借りる」
ぱっと目を反らし、フォンは足早にバスルームへと飛び込む。
その背を、ジェイクはクエスチョンマークを頭に浮かべながら見つめていた。