イルゲネス
□X
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頬に触れた掌。涙を指先で拭い、赤くなった目尻に唇を寄せる。
額や頬、瞼へと何度も何度もくちづけを繰り返し、やっと唇に辿り着くと、フォンは思わずジェイクのシャツの裾を強く掴んだ。
自分から欲しがったのにどう応えていいかわからず、フォンは強く目を瞑って、ジェイクのされるがままになる。
「……ん」
「フォン……」
ジェイクの舌が、固く引き結ばれた唇を割る。
縮こまった舌先をなめ、緊張をほぐすようにゆっくりと絡め合わせた。
ぬめった粘膜同士の触れ合う感触に戸惑うフォンだったが、ジェイクは根気よく緊張を解きほぐしていく。
後頭部に回した掌で髪を撫で、背中に回した腕は強張った体をさすった。
情熱的なくちづけとは裏腹に、あやすような愛撫を与えられ、フォンの体から余分な力が抜けていく。
唇が離れた時には、フォンの体は弛緩しきっていた。
「ジェ、イク…」
フォンは手を伸ばし、ジェイクの頬に触れようとする。
自分ばかりされているのが嫌で、今度は自分から。と、思ったのだが……伸ばした手は逆にジェイクに捕らえられ、掌に音を立ててくちづけられた。
「っ!」
捕らえられた掌が熱を帯びる。
ジェイクの唇が触れた箇所から発熱しているようだ。
「ジェ、ジェイク! 離してくれっ……!」
羞恥で息が出来なくなりそうだった。
ほんの少し、肌に触れられているだけなのに、フォンの体は疼き始めている。
今からこれでは、もっと直接触られたらどうなるかわからない。
官能なんて知らないフォンにとっては、ジェイクに与えられる感覚のすべてが未知のものなのだ。
「……フォン。大丈夫だ、怖くない。
これからする事は、お前を愛するためのものであって、傷付けるためのじゃないんだ」
嫌がるフォンの様子に、怖じ気付いたと思ったのか、ジェイクは再びあやすように頭を撫でる。
そうされると、不思議なくらい心が落ち着いてしまうのだから、自分は相当現金だと思う。
「ジェイク……」
「けど、本当に嫌ならやめるぞ?」
そう言うと、ジェイクはフォンから体を離そうとする。すると──
「フォン?」
「あ──」
考えるより先に体が動いていた。
フォンの腕が、ジェイクの腕を掴んだのだ。
「……優しくするから、心配するな」
抱き締められ、額に唇を寄せられたフォンは、小さく首肯して応えた。