イルゲネス

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 頬に触れた掌。涙を指先で拭い、赤くなった目尻に唇を寄せる。
 額や頬、瞼へと何度も何度もくちづけを繰り返し、やっと唇に辿り着くと、フォンは思わずジェイクのシャツの裾を強く掴んだ。
 自分から欲しがったのにどう応えていいかわからず、フォンは強く目を瞑って、ジェイクのされるがままになる。

「……ん」
「フォン……」
 ジェイクの舌が、固く引き結ばれた唇を割る。
 縮こまった舌先をなめ、緊張をほぐすようにゆっくりと絡め合わせた。
 ぬめった粘膜同士の触れ合う感触に戸惑うフォンだったが、ジェイクは根気よく緊張を解きほぐしていく。
 後頭部に回した掌で髪を撫で、背中に回した腕は強張った体をさすった。
 情熱的なくちづけとは裏腹に、あやすような愛撫を与えられ、フォンの体から余分な力が抜けていく。

 唇が離れた時には、フォンの体は弛緩しきっていた。



「ジェ、イク…」
 フォンは手を伸ばし、ジェイクの頬に触れようとする。
 自分ばかりされているのが嫌で、今度は自分から。と、思ったのだが……伸ばした手は逆にジェイクに捕らえられ、掌に音を立ててくちづけられた。

「っ!」
 捕らえられた掌が熱を帯びる。
 ジェイクの唇が触れた箇所から発熱しているようだ。
「ジェ、ジェイク! 離してくれっ……!」
 羞恥で息が出来なくなりそうだった。
 ほんの少し、肌に触れられているだけなのに、フォンの体は疼き始めている。
 今からこれでは、もっと直接触られたらどうなるかわからない。
 官能なんて知らないフォンにとっては、ジェイクに与えられる感覚のすべてが未知のものなのだ。



「……フォン。大丈夫だ、怖くない。
 これからする事は、お前を愛するためのものであって、傷付けるためのじゃないんだ」
 嫌がるフォンの様子に、怖じ気付いたと思ったのか、ジェイクは再びあやすように頭を撫でる。
 そうされると、不思議なくらい心が落ち着いてしまうのだから、自分は相当現金だと思う。

「ジェイク……」
「けど、本当に嫌ならやめるぞ?」
 そう言うと、ジェイクはフォンから体を離そうとする。すると──

「フォン?」
「あ──」
 考えるより先に体が動いていた。
 フォンの腕が、ジェイクの腕を掴んだのだ。



「……優しくするから、心配するな」
 抱き締められ、額に唇を寄せられたフォンは、小さく首肯して応えた。


 
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