イルゲネス

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「……ジェイクィズと何かあったんだ、フォーティンブラス?」
 ニコラスのそれは、質問ではなく、確認であった。

「……何も」
 フォンはゆるく首を横に振るが、勿論ニコラスは納得しない。
 席に腰掛けて瞳を伏せるフォンを、腕組みをして見下ろし、ニコラスは言った。
「ジェイクィズと君の間で何があったかを、あえて聞こうとは思わないが、この機会に部屋替えでもしたらどうだ?」
 いい機会だから、あいつと距離を置いた方がいい。そう言うニコラスに対し、フォンはもう一度首を横に振る。

「ジェイクは悪くない。俺がいけないんだ……」
 我儘で、欲張りだから。きっと、こんな自分はジェイクには相応しくない。
 だけど──
「あいつから、離れたくない…」
 切なげに呟いた言葉は、ニコラスの耳には届かなかった。





 あの夜からほとんどジェイクとは口をきいていない。
 ジェイクが何か言おうとする度、フォンは逃げる。その繰り返しだった。
 最初の頃こそ、しつこく食い下がってきたジェイクだったが、最近はフォンがジェイクが眠るまで部屋に帰ってこない事もあり、何も言わなくなった。
 今日もそう。フォンは深夜と呼んで差し支えの無い時間に、部屋に戻ってきた。
 ジェイクは寝ている。
 それを起こさないよう足音を殺し、寝間着に着替え、ベッドに潜り込む。
 そして朝になったら、ジェイクが起き出す前に、部屋を出ていくのだ。



「ジェイク…」
 ぽつりと名前を呼ぶ。
 少し前まで、その名を呼ぶだけで心が満たされた。
 名を呼べば、ジェイクはいつだって笑顔を返してくれた。なのに、今は──

 フォンは頭までベッドにもぐりこむと、声を押し殺して泣いた。



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