イルゲネス

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 言葉は、甘く、優しく──
 そして、不実だ。





「好きだ、ジェイク」
「ああ、俺もだ」
 誰もいない資料室。ジェイクの制服の裾を掴んで愛の言葉を口にするフォンにそう囁き返し、頬にくちづける。
 端から見れば、ふたりは紛れもなく恋人同士だろう。
 だが、事実はそうじゃない。

「ジェイク……」
「ん?」
 顔を離すと、フォンは上目遣いにジェイクを見る。
 餌をねだる猫みたいだ。と、頭の隅で思いながらも、ジェイクはフォンの肩に回していた腕をほどき、僅かに距離を置いた。
「どうかしたか?」
「……なんでも、ない」
 フォンはゆるく頭を振ると、ジェイクに先んじて出口へと向かった。
「…………」
 その背中を見ながら、ジェイクは小さく吐息をつく。
 親友が何を望んでいるか、ジェイクは薄々気付きはじめていた。



 フォンの事は単純に好きだし、可愛いと思う。
 誰にもなつかない野良猫が、自分にだけなついてくれたようで嬉しい。
 だが、それはあくまで家族に向けるような愛情だ。
 同性だから恋愛感情を抱けない。なんて言う程、モラルに縛られた性格ではない。
 三年の放浪中に色々な国の価値観も知ったし、元々多種多様な価値観を受け止めるだけの懐の広さも持っていた。
 多分、フォンが誰か別の男を好きになったと言ったら、心から祝福をし、応援もした事だろう。
 しかし、ジェイク自身はフォンを抱きたいとは思わない。

 ジェイクはフォンを大切にしたかった。
 いつか、彼が後悔するような関係を持ちたくはない。
 そう思ったジェイクは、フォンの熱のこもった視線に気付かないふりをするしかなかった。





 だが──
 その思いが独り善がりなものである事に、ジェイクはその時気付いていなかった。



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