イルゲネス

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 好きなのだ。と、告げられた。
 家族のように……一番の友人として……そして、恋しいのだと。
 真摯な光を宿した孔雀瞳で、そう告げられた。





「おはよう、フォン」
「ああ」
 いつもと変わらないやり取り。
 フォンは洗面所から出てきたジェイクの脇をすり抜け、交代で洗面所に入ろうとする。
 と、その時。額に柔らかな感触。それがジェイクの唇だと気付くのと同時に、フォンは自分の頬が紅潮するのを感じた。
「先に食堂行ってるからな」
「…………わかった」
 笑みを浮かべ、軽く手を上げて部屋を出ていくジェイクの背中を見送ると、フォンはズルズルとその場に座り込みそうになるのを堪えて、洗面所に入った。
 鏡に写った顔は、高熱が出ているのではと思わせるくらい、赤い。
 ジェイクにいいようにからかわれている気がしなくもなかったが、それでもこの淡い想いに体が火照るのを止められはしなかった。



『…………』
 告白の後。ジェイクは何も口にしなかった。
 普段鷹揚なジェイクも、同性の友人の突然の告白に、どう反応していいかわからなかったようだ。
 フォンは親友のその姿に、後悔を募らせる。
 口にすべきではなかったのだ。と、そう後悔した。
 いくらジェイクが何事にも寛容だからといって、同性から「好きだ」などと言われて喜ぶとは思えない。
 こんな事、言わなければよかった。
 フォンは己の表情を隠すように俯くと、すまない。と、口にしようとした。
 だが──
『それは、具体的にどうしたいって事なんだ?』
 ジェイクは首を傾げて、そう尋ねてきた。
 その顔に、嫌悪の色は無い。
『どうって……』
 何故、ジェイクはそんな事を聞くのだろうか。
 口ごもるフォンに、ジェイクは小さく笑った。
『そんな顔するなよ』
 そして自分の隣に座るよう手招きすると、俯く顔を上げるように言う。
『俺も、フォンの事好きだぞ。弟みたいに思ってるし、一番親しい友達なつもりだし……けど、恋とか言われても、ぴんとこないな』
『そう、か…』
 それでも、拒否されなかっただけ良かったと言えるだろう。
 ジェイクは優しいから──
『……フォン』
『何だ?』
 温かな掌が、くしゃりと黒髪を撫でた。
『お前、俺とキスしたいとか……そういう風に好きなのか?』
 直接な言葉で問われ、フォンの目元は赤く染まる。
『……気持ち悪い、か?』
『あー…そうでもないな』
 そう答えられ、フォンは思わずジェイクの顔をまじまじと見上げた。
 流石にそれは気持ち悪がられると思ったのに。
『お前なら、多分平気だ』
 囁かれるのと同時に、額に唇が触れた。


 
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