イルゲネス
□夜に死ぬ
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女神は死んだ。と、あいつは言った。
そして、お前の中の俺も死んだのだと──あいつは涙を流しながら微笑んだ。
最期まで嘘を突き通すべきだったのかもしれない。
全てを語り終えた後で、フォンはそんな事を思った。
だがジェイクだけには知っていて欲しかった。いや、本当はジェイクだけには知られたくなかった。
相反する思いに苛まれたフォンの心に決着をつけさせたのは、皮肉にも明日に控えた首相暗殺計画だった。
完璧な計画を練ってきた。何年もかけて、緻密で一切の隙も矛盾も無い計画を。
だが、それも絶対ではない。
ひょっとしたら、明日死ぬのは自分と目の前の男かもしれない。そう考えた時、心は決まった。
目の前のこの男にだけは真実を話そう。他の全ての人間を騙す事になっても、ジェイクにだけは嘘をつき続けたくない。
そう心に決め、フォンは全て話した。
自分が人造体である事。浄化計画の事。十三才までの記憶は嘘であり、この手で仇を討った両親とは血の繋がりが無い事。闇市場への憎しみは、すべてプログラムされた感情だった事。
ジェイクは黙って聞いていた。ひょっとしたら、かける言葉が見付からなかっただけかもしれないが、フォンにはそれが有り難かった。
今、何か言葉をかけられたら…この一番愛しい男から、ひとことでも否定の言葉を聞いてしまったら、多分立っていられなかっただろう。
淡々と、感情を交えずに全てを話終えたフォンは、ジェイクの顔を真正面から見つめて言った。
「お前の中の俺は、今日死んだんだよ…ジェイク」
お前の中のフォン・フォーティンブラスという“人間”は今日死んだんだ。
そう告げたフォンの孔雀眼からは、知らぬ間に止めどなく涙が溢れていた。