イルゲネス
□夜情
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例えば──今、この首を絞められたなら。
例えば──今、この胸に刃を突き立てられたなら。
例えば──今、この頭に銃口を押し当てられたなら。
きっと、確実に俺は死ぬ。
抵抗する気など端から無い。簡単に殺せる筈だ。
あいつがもし、それを望むなら……俺は──
掴まれた手首が痛む。
骨を砕かれてしまいそうなくらい、強い力で掴まれた腕。
それは逃げないように拘束しているのではなく、無くしたくないと、しがみついているように見えた。
細い身体を縫い付けた広いベッドが軋む。
一国の首相にあてがわれたベッドは彼ひとりで眠るには広すぎるが、自分より逞しい部下に組み敷かれるには狭すぎた。
「つっ……」
微かに痛みが走る。
首筋を甘噛みしていた犬歯が、皮膚の薄い部分に突き刺さったのだ。
眉をしかめるフォンに気付いたのか、ジェイクはその箇所をそっとなめる。薄く残った傷に唾液がしみた。
ほどかれたネクタイ。外されたシャツのボタン。
フォンの肌を這うジェイクの掌はその熱っぽい行為とは裏腹に温かく、妙に気持ちを落ち着かせた。
だが、数年ぶりとはいえフォンの体を知り尽くした腕が与えるのは心穏やかな時間などではなく、ジェイクの内に眠る熱情だ。
「相変わらず、色白いな…」
自分の記憶に間違いがないか確かめるよう、頭の先から爪先までを何度もいったりきたりする視線が居たたまれなく、フォンは顔を背ける。
彼は今この状況を甘受しながらも、目の前の男に心を開く事が出来ずにいた。
人造体として生を受けた時点で、強固な理性までも組み込まれているのか、フォンは性欲が希薄だった。
だが、相手がジェイクなだけで、その理性は簡単に崩れる。
拒まなければ。という意思とは反対に、フォンの身体を欲情を示していた。
「ぅっ……んっ」
皺ひとつ無いシャツを開き、胸から腹へと舌が這う。
生暖かく、軟らかな舌は臍までくるとその窪みを一撫でしてから、濡れた音を立てて腹の肉に吸い付いた。
「ぅあっ…!」
それは昔、フォンが見える所に痕を残すな。と、言ってからジェイクがするようになった行為だ。
今でも律儀に覚えていてくれたのかと思うと、頭の中がジンッと痺れる。