イルゲネス U
□X
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「その、好き……とは?」
「君がジェイクィズを想うように。そして、ジェイクィズが君を想うように」
言葉の意味を理解したらしいフォンは、今度はパクパクと声も出さずに口を開いたり閉じたりする。
この十三年で初めて目にするフォンのそんな姿をもう少し見ていたい気もしたが、今日ニコラスがここに来たのはそのためではない。
「心配しなくてもいい。“だった”と言ったろ?」
「あ、ああ……」
やっと落ち着いたフォンは、いずまいを正すと改めてニコラスの顔を見た。
「…………今にして思うと、多分、ずっと前から君への気持ちに区切りはついてたんだ。だが、諦める気にはなれなかった。それはジェイクィズに敗北したという意味に他ならないから……」
「ニコラス」
「君への想いと、ジェイクィズへの対抗心は表裏一体だ。君を想う時、必ずといっていい程あいつを思い出した」
初めて会った時からずっと嫌いだった。
自分とあまりに正反対なジェイクが。
ジェイクの何倍も努力し、上を目指し、フォンのために尽くしてきた。
だけど、勝てたと思えた事は一度も無い。
ジェイクが軍を――フォンの元から去った時でさえ、ニコラスはジェイクに勝利したとは思えなかった。
フォンの心にはいつだってジェイクがいると、肌で、本能で、理解していたからだ。
「ジェイクィズがずっと嫌いだった。妬ましかった。
俺はあいつの持ってない物をいくつも持っている。地位も、名誉も……。
なのに、ジェイクィズは俺の一番欲しかったものを容易く手に入れ――そして、手に入れた時と同じくらい容易く手離した」
フォンの心と、信頼を――
「フォーティンブラス……」
「…………何だ?」
「俺は、君を好きだった以上にジェイクィズが嫌いだった。
あいつに負けたくない一心で、君を好きで居続けたんだ……すまない」
今度はニコラスが深く頭を下げると、フォンは慌ててその頭を上げさせる。