イルゲネス U
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もうすぐ冬を迎えようというのに、陽光は燦々と世界を照らす。
今のジェイクには、太陽は眩い白。青空はそれよりも薄い白色にしか見えないけれど、暖かさを感じる触覚が無事ならば、太陽と晴天を知る事は出来る。
付き添いのセレナを帰し、ジェイクは病院の屋上でひとり、日向ぼっこをしていた。
時折、冬に向かう北風がひんやりと身を切ったが、それ以外は静かなものだ。
ほんの少し前まで、銃声や怒声が響いていた国と同じには思えないくらいに、辺りは静寂に満ちている。
「こんな所にいたのか、ジェイク」
「レイ、か……」
身を捩って階段のある方向を見れば、背景よりも薄い白がこちらに向かってくるのがわかった。
レイの銀髪だ。
「どうした? 今日は暫定政府の方に行くって言ってなかったか?」
「ちょっとな……」
レイはとことこと、ジェイクが腰掛けたベンチに歩み寄り、ジェイクを見下ろす。
「目、まだ駄目か?」
「お前がどこにいるかくらいわかるさ」
手を伸ばし、自分より一回り以上細い腕を掴んだ。
それを引いて、座るよう促せば、先程より近くに銀色が見える。
この銀に見え隠れする孔雀羽色の瞳は、かつて友が見せたように不安げに揺れている筈だ。
「心配すんなよ。医者だって、徐々に回復してるって言ってた。また前みたいに、ちゃんと見える日が来るって」
「ん……そうだな」
神の雷――否、他国からの攻撃にあったあの日。
その強い光はジェイクの瞳を焼いた。
生還したジェイク以外の三人の視力に異常が出なかったのは、彼等がパージ・チルドレンだからであろう。
ただひとり、人並みの体しか持たぬジェイクには、些か強すぎる閃光だったのだ。
「……あのさ、ジェイク」
「ん? 何だ?」
「…………その。辛く、ねぇ?」
掠れた声音に、ジェイクは内心苦笑した。
目が見えない事に不安が無いと言えば嘘になる。
だが、ジェイクはそれを口にはしない。
この優しい青年は、自分より不安な筈だ。そして、彼の血の繋がらぬ同胞も。
ジェイクは、彼等の宿命にこれ以上重いものを乗せてやりたくはなかった。
「ばーか。お前に心配される程、俺は落ちぶれちゃいねぇっての」
おおよその見当で額を弾けば、思ったよりも近かったらしく、レイは痛みに呻いた。
「いってえなっ! もうちょっと手加減しろよ!」
「いい若いもんが、軟弱な事言うなよ」
笑いながらぐしゃぐしゃと髪をかきまぜながら、ジェイクはもう一度階段へ視線を向けた。
「そろそろ、出てきたらどうですか?」
その言葉に、ジェイクと戯れていたレイの動きが止まる。
「気付いてたのか……?」
「目が見えない分、聴覚が鋭敏になってるみたいでな」
足音がひとつ余計に聞こえた――そう言いながら、ジェイクはその人物の登場を待った。
「久しぶりね、ジェイクィズ……」
現れたのは、アイネスだった。