イルゲネス U

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 ジェイクは自分を恨んでいるか――?



 フォンの問いに、レイは首を大きく振った。
「そんなわけないだろっ!
 ジェイクは命懸けでアンタを守ろうとしただろうがっ! どうして信じてやれないんだよっ!」
 八つ当たりだと思った。
 ジェイクに会えないフォンが不安に思う気持ちはわかる。
 だが、フォンを思って今は会えないと唇を噛んだジェイクの姿を、レイは知っている。
 知っているから、どうしてもフォンに怒りがわいてきてしまう。
 あんなにもジェイクに愛されているのに、その想いを信じてやれないフォンに腹が立った。
 しかし、レイの怒りの原因を知らぬフォンは、ただ淡々と言葉をつむぐ。

「ジェイクだって人間だ。怒りにかられ、他者を恨む事だってあるだろう」
「……本気でそう思ってるなら、ジェイクの代わりに俺がアンタを殴るぞ」
 フォンとレイの視線が交わる。
 感情の読み取れないひんやりとした眼差しと、苛立ちを隠そうともしない真っ直ぐな眼差し。
 交錯した視線が火花を散らしたが、すぐにそれは背けられた。
 フォンは瞳を伏せ、自分の手元に視線を落とす。



「…………ジャニス・レノを知っているか?」
「……知ってる、けど……。何だよ、唐突に」
 以前、一度だけ酒を酌み交わした男の端正な顔を思い出し、レイは怪訝そうに首を傾げる。
「彼は俺達と同期だった。クラスは違ったが、ニコラスのルームメイトという事もあって、まんざら知らぬ仲じゃなかった」
「……それは、ジェイクとニコラスに聞いた」
 フォンが何を言いたいのかわからないレイは、怒りをおさめ、俯く横顔を見つめた。

「彼には弟がいた」
「弟? 兄じゃなくて?」
 兄を自殺に追い込んだらしい――そんな話は聞いたけれど、弟の話なんて知らない。
「正確には弟じゃない」
「何だよ、それ」
「彼は“弟”という名前のパーフェクトスペアだった」
「なっ!?」
 驚いた。
 確かに彼は島裏のドンのひとり(当時はその息子だったろうが)だ。パーフェクトスペアくらいいてもおかしくはない。
 だが、それを“弟”と呼んでいたのか?
 彼等が商品として扱う筈の“モノ”を、“弟”として――家族として扱っていたのか?


 
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