イルゲネス U
□U
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ジェイクは自分を恨んでいるか――?
フォンの問いに、レイは首を大きく振った。
「そんなわけないだろっ!
ジェイクは命懸けでアンタを守ろうとしただろうがっ! どうして信じてやれないんだよっ!」
八つ当たりだと思った。
ジェイクに会えないフォンが不安に思う気持ちはわかる。
だが、フォンを思って今は会えないと唇を噛んだジェイクの姿を、レイは知っている。
知っているから、どうしてもフォンに怒りがわいてきてしまう。
あんなにもジェイクに愛されているのに、その想いを信じてやれないフォンに腹が立った。
しかし、レイの怒りの原因を知らぬフォンは、ただ淡々と言葉をつむぐ。
「ジェイクだって人間だ。怒りにかられ、他者を恨む事だってあるだろう」
「……本気でそう思ってるなら、ジェイクの代わりに俺がアンタを殴るぞ」
フォンとレイの視線が交わる。
感情の読み取れないひんやりとした眼差しと、苛立ちを隠そうともしない真っ直ぐな眼差し。
交錯した視線が火花を散らしたが、すぐにそれは背けられた。
フォンは瞳を伏せ、自分の手元に視線を落とす。
「…………ジャニス・レノを知っているか?」
「……知ってる、けど……。何だよ、唐突に」
以前、一度だけ酒を酌み交わした男の端正な顔を思い出し、レイは怪訝そうに首を傾げる。
「彼は俺達と同期だった。クラスは違ったが、ニコラスのルームメイトという事もあって、まんざら知らぬ仲じゃなかった」
「……それは、ジェイクとニコラスに聞いた」
フォンが何を言いたいのかわからないレイは、怒りをおさめ、俯く横顔を見つめた。
「彼には弟がいた」
「弟? 兄じゃなくて?」
兄を自殺に追い込んだらしい――そんな話は聞いたけれど、弟の話なんて知らない。
「正確には弟じゃない」
「何だよ、それ」
「彼は“弟”という名前のパーフェクトスペアだった」
「なっ!?」
驚いた。
確かに彼は島裏のドンのひとり(当時はその息子だったろうが)だ。パーフェクトスペアくらいいてもおかしくはない。
だが、それを“弟”と呼んでいたのか?
彼等が商品として扱う筈の“モノ”を、“弟”として――家族として扱っていたのか?