イルゲネス U

Z
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 ニコラスの機嫌が著しく悪い。



 寮の部屋を戻したいとニコラスが打診してきた時、ジャニスは全てを理解した。
 彼の淡い片恋は、花を咲かせる前に摘み取られてしまったのだ。と。
 慰めの言葉のひとつでもかけてやるべきか。それとも、何も知らぬ顔で「仲直りして良かったね」とでも言ってやるべきか。

 けれど、ジャニスはそのどちらも口にはしなかった。
 ニコラスが苦々しい顔をしながらも、あのふたりはあのままで良かった。と言わなかったからだ。
 恨み言どころか、愚痴のひとつも出ない所を見ると、ニコラスもわかっているのだろう。
 ジェイクィズの側にいる時だけ、フォーティンブラスが心の底から笑顔を――本当に幸せそう笑みを見せる事を。

 だからジャニスは、フォーティンブラスとジェイクィズの件には一切触れず、ただひとこと「いいよ」と答えた。
 彼は、その程度には友情にあつい青年だった。


 
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