イルゲネス U
□Z
1ページ/7ページ
ニコラスの機嫌が著しく悪い。
寮の部屋を戻したいとニコラスが打診してきた時、ジャニスは全てを理解した。
彼の淡い片恋は、花を咲かせる前に摘み取られてしまったのだ。と。
慰めの言葉のひとつでもかけてやるべきか。それとも、何も知らぬ顔で「仲直りして良かったね」とでも言ってやるべきか。
けれど、ジャニスはそのどちらも口にはしなかった。
ニコラスが苦々しい顔をしながらも、あのふたりはあのままで良かった。と言わなかったからだ。
恨み言どころか、愚痴のひとつも出ない所を見ると、ニコラスもわかっているのだろう。
ジェイクィズの側にいる時だけ、フォーティンブラスが心の底から笑顔を――本当に幸せそう笑みを見せる事を。
だからジャニスは、フォーティンブラスとジェイクィズの件には一切触れず、ただひとこと「いいよ」と答えた。
彼は、その程度には友情にあつい青年だった。