イルゲネス U

Y
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 隣に座ったジェイクが、フォンの肩に頭をあずけてくる。
 華奢な肩に額を乗せ、ジェイクは眠るように目を閉じていた。
 絡み合わせた指先が、温かい――

「ジェイク……部屋、元に戻すからな」
「…………ああ、ニコラスには謝らないとな」
 ぽつりぽつりと交わされる言葉に、フォンはやっと日常が戻ってきた事を確認する。

「けど、今日は――」
 ジェイクの頭が、フォンから離れた。
「今日は向こうに戻る」
「…………別に構わないだろ。ニコラスには言ってある」
 立ち上がろうとするジェイクの袖を掴み、フォンはじっと青い瞳を見つめる。
 ジェイクは苦笑して、ゆるく首を左右に振った。
「さすがに、今日の今ってのは、な……」
 ジェイクの指が、フォンの頬を撫でる。
 その指先に慈しみ以外の感情を感じ取ったフォンは、ジェイクから視線を外し、俯いた。

「ゆっくり行こう、フォン」
 やんわりとフォンの手を外させ、指通りのいい髪を軽くすく。
「じゃあ、また明日――」
「――ない」
 先程よりずっと強い力で、フォンはジェイクを引き止めた。
「フォン?」
「構わない…………と、言ったんだ」
 見下ろした白磁の頬は、薔薇色に染まっている。

「俺は、構わない。
 お前の好きなようにすればいい……」
 風の音にすらかき消されてしまいそうな、小さくか細い声。
 ジェイクは瞳を細め、苦く言う。
「……そういう事言うなよ。
 前に言っただろ。お前、俺を信頼しすぎだ」

 酷い事されたくないだろ――?

 ジェイクはフォンの前に跪いて、困ったように言う。
「お前に、嫌な思いはさせたくないんだ」
「嫌じゃ、ない」
「恋と性欲はべつもんだ。優しくしてやりたいって思うけど、今の俺には多分出来ない」
「…………」
 膝の上に置いたフォンの拳に力がこもった。

「優しい俺でいさせてくれ。
 頼むから、煽るような事は――」

「お前は馬鹿だ、ジェイク」

 フォンの腕がジェイクの襟首を掴む。
 そして、引き倒された。


 
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